やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『新たな東証開示要請の意義と課題』という特集です。

「PBR1倍割れ銘柄」というパワーワード、トレンドを生み出した東証開示要請でしたが、今月のジャーナルのテーマとなりました!
そんな今月のジャーナル、先月号も少し変わった構成でしたが、変則的な構成で、座談会+短い論文4本となっていました。
具体的には、論文執筆者4名のうち、3名が座談会のメンバーとなっていて、当然の帰結かもしれませんが、論文に書かれている内容と、座談会で議論されている内容が似たようなものとなっていました。

ということで、座談会の書きおこしを読んで思ったことと、1本目の論文を読んで思ったことを書いていきたいと思います!

座談会は『新たな東証開示要請の意義と課題(佐藤淑子 / 富永誠一 / 豊田一弘 / 北川哲雄氏)』です。

大きなムーブメントを生み出したものとして、東京証券取引所の上場企業への要請「資本コストや株式を意識した経営の実現に向けた対応について」(2023年3月31日)がありました。

このPDFのタイトルの次のスライドに書いてある『背景』の文言の強さに衝撃を受けた方は多いのではないでしょうか?
多くの方が読まれていると思いますが、引用したいと思います。

従来より、コーポレートガバナンス・コードでは、企業が投資者をはじめとするステークホルダーの期待に応え、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するためには、資本コスト・資本収益性を十分に意識した経営資源の配分が重要という観点から、資本コストを意識した経営(原則5-2)について示されています。
 一方で、現状では、プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の上場会社がROE8%未満、PBR1倍割れと、資本収益性や成長性といった観点で課題がある状況であり、市場区分見直しに関するフォローアップ会議では、こうした現状を踏まえ、今後の各社の企業価値向上の実現に向けて、経営者の資本コストや株価に対する意識改革が必要との指摘がなされています。
 本資料は、こうした現状や議論等を踏まえ、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて重要と考えられる対応をまとめたものであり、上場会社の皆様に積極的な実施をお願いするものです。

同じスライドに『趣旨』も書いてあります。こちらも引用したいと思います。

本対応を実施していただく趣旨は、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するため、単に損益計算書上の売上や利益水準を意識するだけでなく、バランスシートをベースとする資本コストや資本収益性を意識した経営を実践していただくことです。
 具体的には、取締役会が定める経営の基本方針に基づき、経営層が主体となり、資本コストや資本収益性を十分に意識したうえで、持続的な成長の実現に向けた知財・無形資産創出につながる研究開発投資・人的資本への投資や設備投資、事業ポートフォリオの見直し等の取組みを推進することで、経営資源の適切な配分を実現していくことが期待されます。
資本収益性の向上に向けて、バランスシートが効果的に価値創造に寄与する内容となっているかを分析した結果、自社株買いや増配が有効な手段と考えられる場合もありますが、自社株買いや増配のみの対応や一過性の対応を期待するものではありません。継続して資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的な成長を果たすための抜本的な取組みを期待するものです。
 また、これらの取組みを進めるにあたっては、企業が独自の方法により、その方針や目標、具体的な内容を投資者にわかりやすく示し、投資者からの評価を得ながら、開示をベースとした投資者との積極的な対話を通じて、取組みをブラッシュアップしていくことが期待されます。

「このページを印刷して、目立つところに貼っておきなさい!」というくらい、ビシッとした直球のメッセージたちではないでしょうか?
「これをやりたくないのならば、非上場会社になってください!」という裏メッセージさえ見えてきそうです。実際に非上場会社になる会社が多数出てくる流れが来るでしょう。さておき。

 

座談会では、①企業への情報開示要求②機関投資家への期待③ガバナンスシステムの見直し、について多く議論されています。

「①企業への情報開示要求」では、バランスの難しさを痛感します。
「情報を出しすぎて他社との競争に影響が出ないか?」と思ってしまうような情報開示が「IR優良企業」になっていたり、「将来の見通しが分からないから、適当にやってるやん」と思えてしまう情報開示で企業側と投資家側のキャッチボールのちぐはぐさが露呈されていたり、「サステナビリティ開示要求が無数に来ているんですけど・・・」という企業側の嘆き声が聞こえる、投資家側からのToo MuchでNonsenseで辟易とさせてしまう要求があったりで、全体感として、企業側へのリスペクトが情報開示を要求する人たちに感じられません

「②機関投資家への期待」では、ROE8%未満、PBR1倍割れといった、資本収益性や成長性といった観点での課題を指摘することが最重要で、「御社に投資しているので、企業価値向上に取り組んでほしい」というシンプルさで進めるべきではないかと思いました。
ただ、パッシブ投資家、アクティブ投資家、アクティビストでは投資の時間軸が違うので、企業が行うべき施策は若干ややこしくなります。この点は、「我が社はアクティビストの提案に従ってリスクシナリオ時のバッファーとなっている現預金を手放し、短期的にROEやPBRを向上させます。しゃーないですが、リスクシナリオ時の倒産確率が〇〇%上昇します」といった方向性、または、「我が社は今後100年以上存続することを目指します。現預金保有比率を〇〇%を目途とし、事業の入れ替えを〇〇という基準で毎期行っていきます。投資家の皆さん、いらん提案はせんといてください」といった方向性を考えていくしかないところです。

「③ガバナンスシステムの見直し」は、変えるか、変えないかが問われています。現行のガバナンスシステムが良いのか、これから変えようとするガバナンスシステムが良さそうなのか、両者を分析・判断する必要が出てきています。
昨今言われている「社外取締役が活躍できるように・・・」というビッグイシューに対して、中途半端な対応をしている企業がほとんどではないでしょうか?麻雀で例えるならば、テンパイ料を払いたくないから形式聴牌(ケイテン)しているように感じられます。そういうときもあって良いのでしょうが、半荘みたいに終わりがあるわけではない企業経営ですから、いずれしっかりと役作り=ガバナンスシステムの構築をする必要が出てくるでしょう。
座談会の議論では、「筆頭社外取締役を置いてはどうか?」、「取締役会事務局を強化してはどうか?」という2つの提案がなされています。これは社外取締役を活躍させるための「両輪」であると思います。

 

最後に感謝です。解題を書かれた北川哲雄さんは、こういった座談会のほうが論文よりも有益なアウトプットになるのではないかと思って、この座談会を企画したのではないでしょうか。
興味深い座談会でした!ありがとうございます!

 

1本目の論文は『エンゲージメント・情報開示で改めて問われる統合思考(村田真理氏)』です。

著者の肩書は、GPIFのESG・スチュワードシップ推進部、ESG・スチュワードシップ推進課長となっています。巨大なファンドのESG・スチュワードシップ推進者が語る、現況報告、取り組み、期待が書かれていました。

現況報告については、「スチュワードシップ活動報告」に詳しく載っています。こちら、見やすくて、分かりやすいです!ぜひご一読ください!
本誌では、パッシブとアクティブでのエンゲージメントの違い、企業の時価総額別でのエンゲージメントテーマの違いなどが書かれています。
ESGでいうと、一般的に「G」の話をメインにするようですが、時価総額が大きな企業になると、「E」の比率が上がってくるようです。想像通りでしょうか・・・。

取り組みについては、こちらも「スチュワードシップ活動報告」の12ページなどにありますが、「重大なESG課題」というのを毎年リストアップしていることが紹介されています。
これ以外で良いなぁと思ったのは、GPIFの企業に対する思いやりのスタンスです。
「優れた統合報告書」の選定をやっているそうなのですが、『統合報告書が運用機関・企業双方に有意義な開示となるよう』という文言があり、何と言いましょうか、ほっこりしました。

期待については、東証の要請に準じた形で、『長期的な企業価値向上をゴールとして、ESGのような非財務情報を含めた統合思考をもって、収益性や企業の成長性を考える必要がある』と言っています。
投資家には、『企業の対策、開示をベースにした対話を求め』ていて、僕にとっては、「企業の対策、開示をベースとしていない、投げっぱなしの要求はやめなさい」という解釈にも感じられました。

村田さん、ありがとうございました!

 

以下、2,3,4本目の論文については、リンクのみとなります!

2本目の論文は『アクティブ投資家からみた東証開示要請の意義(豊田一弘氏)』です。

3本目の論文は『グローバルに認められる市場に貢献するIR(佐藤淑子氏)』です。

4本目の論文は『コーポレートガバナンスの視点からみた東証要請(富永誠一氏)』です。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『新たな東証開示要請の意義と課題』という特集でした。

ホットなトピックであり、一人一人が書く論文のような形式ではなく、北川さんをファシリテーターとして、インタラクションしながら議論を進めていく座談会という形式がとても良く、非常に参考になりました。ありがとうございます。

以上となります。今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!