やすべえです。前回のまとめでは、2019年1月17日のMBO(マネジメント・バイアウト、経営陣による買収)の発表について、発表後の値動きが通常のTOBのケースと異なっていることまでを紹介してきました。

今回、どうしてTOB発表後の値動きが通常のTOBのケースと異なっていたかが明らかになります。

 

【2019年1月29日から数日・・・「レノ」より大量保有報告書】

TOBの買付価格である610円を上回った2019年1月29日から数日経ち、610円を上回った値段で買っている投資家が明らかになりました。発行済み株式数の5%以上を保有した場合に「大量保有報告書」というものを提出する義務がありますが、その「大量保有報告書」が公表され、「レノ」という投資家が保有していることが明らかになりました。

 

この報告はEDINETという、有価証券報告書等の開示書類を閲覧するサイトで見ることが出来ます。直近の適時開示情報の場合はTDNETというサイトで見ることが出来ますので、この類の情報を集めたいと思っている方はブックマークに入れておくと良いでしょう。

 

EDINETにて、「提出者/発行者/ファンド」名を「廣済堂」とし、「書類種別」のチェックボックスをすべてにして検索すると、「廣済堂」に関する開示書類を閲覧することが出来ます。この「大量保有報告書」を見ていきますと、2019年1月22日から2019年1月28日にかけて買いすすめ、5.83%を保有していることが報告されています。

 

 

その後、株券等保有割合が1%以上増加するたびに変更報告書が出され、2019年1月29日までの買い付けで8.31%保有したことが報告されました。

 

そして、2019年2月1日までの買い付けで、「レノ」と共に、関連会社である「南青山不動産」という株式会社が、共同(以下「レノら」)で9.55%まで買い進めたことが報告されました。(後述の出来事と前後してしまいますが、その後の大量保有報告書を追っていきますと、2019年3月11日までの買付で「レノら」は11.71%まで買い進め2019年3月14日までで「レノら」は12.79%まで買い進めていることが分かります。)

 

 

この事実は、当初のTOB(MBO)がすんなりとは成立しないことを感じさせる出来事であって、マーケット関係者は、「レノ」から大量保有報告書が出た時点で、このTOBについて広く知ることとなり、TOB成立やその他の動きを含めた行く末を追っていくことになります。

 

ちなみに「レノ」という会社は、かつてのいわゆる「村上ファンド」出身の方が多くいらっしゃるという話があります。(Wikipediaにそのように書いてありますが、実際にどうなっているかは知りません。)

そして、「レノ」は、廣済堂の他にも、TOB関連の銘柄など、1つの銘柄を比較的大量に投資をするスタイルが特徴と言えます。(EDINETで検索すると大量保有報告書がたくさん出てきます。)

 

 

【株価は610円を上回り続ける、一時800円台も・・・2月12日に廣済堂よりFAQリリース】

610円を上回った株価がすぐに収まっていれば、何かの間違いで買われたとの説明も出来そうですが、一向に株価は610円を下回ることは無く、2019年2月6日には800円台を付けるなど、TOB価格を上回る推移を見せました。

 

会社としては、610円という買付価格が許容できるものであるという立場でありながら、実際の株価はそれ以上で評価されているという状態です。

 

そんな最中、2019年2月12日、廣済堂から「MBOの実施に伴うFAQ」がリリースされました。

内容は、「印刷事業について」、「葬祭事業について」、「公開買付価格がPBR1倍割れである理由」、「減損の恐れについて」、「財務体質の強化について」、「MBOのプロセスについて」、「第三者委員会の客観性や独立性について」となっています。

 

個人的な意見ですが、核心に踏み込んでいないFAQと感じました。推測の域になりますが、2019年1月17日に発表されたMBOがすんなりと成立するだろうという当初の考えが覆されたことにより、「混乱」があり、こちらはさらに細かい話になりますが、公開買付価格に関して第三者算定機関からの株式価値算定書を取得していなかったことにより、「理論的背景」が描きづらかったことが原因として考えられます。

 

この間の株価はおおむね700円台で推移しました。このままでは610円という価格で売ることは経済的に非合理的ですからTOBが不成立となる可能性が高いということになります。

 

 

【社外監査役が反対 広済堂のMBO、負債増など問題視・・・2019年2月18日に日本経済新聞記事】

2019年2月18日、日経新聞に記事が登場しました。リンクはこちらとなります。

 

社外監査役の中辻一夫氏と創業家の親族である桜井美江氏が反対の意向を示しているというニュースです。

この報道に対して、廣済堂からは反論のコメントがリリースされました。

 

この一連の流れは、こちらも推測の域になりますが、利害関係者による事前事後の認識合わせのようなものが少なかったため生じたと考えられ、それぞれの登場人物がさまざまな知識を受け、ベクトルが散り散りになり、「混乱」が大きくなっていったように感じられます。

 

この間、株価は700円台で推移しました。公開買付価格の610円を大きく上回っていますので、このTOBの成立可能性を上昇させるために何らかのアクションが必要な状況と言えるでしょう。

 

 

【TOB条件の変更が複数回行われる・・・村上世彰氏の名前が登場!】

私はある程度予想していましたが、2019年2月26日、TOB条件が変更されました。リンクはこちらです。

①買付け等の期間:2019年1月18日から2019年3月1日までの30営業日

だったものが、

①買付け等の期間:2019年1月18日から2019年3月12日までの37営業日

に訂正されました。公開買付価格を変更することがダイレクトなアクションであるものの、おそらく細かい条件面が短期的に決定できなかったために、さしあたって期間の延長を行ったように思われます。

 

そして、2019年3月8日、再びTOB条件が変更されました。リンクはこちらです。

①買付け等の期間:2019年1月18日から2019年3月12日までの37営業日

②買付け等の価格:610円

③買付予定の株券等の数:買付予定数24,913,439株、買付予定数の下限16,609,000株、買付予定数の上限-

だったものが、

①買付け等の期間:2019年1月18日から2019年3月25日までの45営業日

②買付け等の価格:700円

③買付予定の株券等の数:買付予定数24,913,439株、買付予定数の下限12,450,800株、買付予定数の上限-

に訂正されました。こちらの変更は、買付け等の期間をさらに延長し、買付け等の価格を上げ買い付け予定数の下限を下げました。このTOBの成立可能性を高めるために打てる施策を打ったというイメージです。

 

買付け等の価格を700円に変更した際にリリースされた「(変更)「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」の一部変更について」に、村上世彰氏の名前が登場しています。『「レノら」と関係が深いとされる村上世彰氏のご意見も参考の上、本取引の意義、当社の企業価値向上のための方策、当社株式の非公開化の必要性、本取引の方法や条件面などを含め、本取引についてより多くの当社の株主の皆様にご理解、ご賛同いただき、かつ、最大限株主価値向上に資するものとなるよう、慎重に議論を行い、本買付条件の変更を決定した』とあります。

 

 

「レノ」という大株主の登場、村上世彰氏の登場で、この公開買い付けは大波乱となっています。

前回にも書きましたが、『TOBについては、通常のケースでは、株価が「買付け等の価格」をほんの少しだけ下回る価格に落ち着く』こととなりますが、新しい買付け等価格である700円をほんの少しだけ下回る価格に落ち着くでしょうか・・・?

次回に続きます。