やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルはフェア・ディスクロージャーの特集です。気になったことや、書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。
まず、1本目の論文(日本版フェア・ディスクロージャー・ルールとその課題ー大崎貞和氏)で日本のフェア・ディスクロージャー・ルール導入に向けての背景などおさらいがあります。まずは、フェア・ディスクロージャー・ルールとは何かということですが、投資判断に影響を及ぼす情報をそういった情報を提供しそうな人からそういった情報を受領しそうな人に伝達されるときにはしかるべき方法でやりましょうというものです。インサイダー取引規制と近いものがありますが、ちょっと違います。インサイダー取引規制は企業の重要な情報を知っている人が公表前にその企業の株を売買してはいけませんよというものです。
さて、このフェア・ディスクロージャー・ルールですが、米国では2000年に導入されたものですが、日本ではなかなか導入されませんでした。2015年、2016年に外資系証券に対して、未公表の業績の提供などに関する業務改善命令が出てから、大きく流れが変わりました。ルールの導入に向けた動きとともに、日本証券業協会がガイドラインを出す動きなどがあり、投資判断に影響を及ぼす情報のやり取りの流れが変わったようなのです。つまるところ、株価の動きがガラッと変わったのです。
昔の株価の動きは概念図ですが、左の図のような感じでした。経過日数「31」あたりが良い情報の公開日ですが、その良い情報の公開日に向けて、じりじりと株価が上がっていくようなパターンが多かったように思います。「良い銘柄は何となくわかったり、感じ取れるから上がるのかな?」と解釈することも出来ますが、上記の業務改善命令を考慮してみると、良い情報の公開日に向けてアナリストが企業に対して「早耳情報」を聞き出し、少数の投資家にその「早耳情報」を伝え、じりじりと株価が上がっていったのではとも考えられます。そして、「早耳情報」を受け取った少数の投資家は、「早耳情報」を持っていない一般投資家が良い情報の公開を受けて買って株価が上昇したところを売り抜けたとも考えられます。
当てたいアナリスト、当たる情報の欲しい投資家、株価の動きを情報を小出しにすることよって株価の動きをマイルドにしたい企業側と、それぞれのサイドに動機が少なからずあったと言えないでしょうか。
一方、最近の株価の動きはこちらも概念図ですが、左の図のような感じになっているように感じます。こちらも、経過日数「31」あたりが良い情報の公開日ですが、それまではあまり株価は動かず、公開日にサプライズとなって、急に株価が変動するパターンが多くなったように思います。「早耳情報」の扱いに慎重となったアナリスト、投資家、企業が情報伝達を自粛しているために、オフィシャルな公開のタイミングで一気に株価に反映するようになったのではないかと考えられます。
注意ですが、この図は概念図ですので、株価の動きというのは一つの良い情報だけで動いているはずはなく、類似銘柄の動きや、マーケット全体や海外のマーケットの動き、株価の動きを見ながら買ったり売ったりする投資家の動きなど、様々な要素で動いていますので、左の図のようにはなりません。あしからず。
たくさん書いてしまいましたが、このフェア・ディスクロージャー・ルールの制度設計は、どのように規制するのかでアナリスト、投資家、企業の情報伝達を過大に乏しくしてしまったり、逆に規制が緩ければ形骸化させてしまう可能性もあり、難しいものだと思います。が、真に「フェア」なルールになるようになって欲しいと切に願っています。
次の論文(アナリストをめぐる環境変化と新たな役割ー北川哲雄氏)では、フェア・ディスクロージャー・ルールに加え、ショートターミズムという四半期決算制度導入によるアナリスト業務と投資の時間軸とのズレの問題にも言及し、アナリストの役割はどのように変わっていくべきかという方向性を興味深く説いています。「銘柄選択(Stock Selection)」や「業績予想(Earnings Estimates)」といったアナリストの代表的な業務の重要性が下がってきているというデータも出てきます。また、「小規模投資家ミーティング(Small Meeting)」や「一対一ミーティング(One on One Meeting)」の位置づけや対処方法についても言及しています。こちらは、長年対処してきた米国に学ぶところがあるのではないでしょうか。
関連する議論として、「新時代に求められるアナリストのビッグチャレンジとイノベーションー松島憲之氏」にも「新時代の証券アナリストの役割変化とその実践」と称して、さまざまな提案や、挑戦の実例などがあり、こちらも興味深く読ませていただきました。
フェア・ディスクロージャーに限らず、公正なマーケットになることは大事なことです。健全なマーケットで健全な投資が出来ることが健全な資本市場の発展につながり、投資家は恩恵を得ることが出来ます。
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