やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは、「多様化するESG投資」特集です。ESGとは、Environmental、Social、Governanceの頭文字をとったもので、欧米では普及してきましたが、日本でも注目されつつあります。というわけで、本年も気になったことや、書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。
1本目の論文(ESG投資の多様な成り立ちと投資手法についてー寺山恵氏)では、ESG投資の概要と歴史、投資手法が説明されています。日本においてESG投資と言えば、GPIFが最近(2017年)になってようやくESG指数を採用し運用し始めたことが思い出されますが、日本の運用におけるAUM(運用資産残高)に占める割合は3.4パーセントとのことでまだまだ進んでいないというのが現状です。一方、欧米ではかなり進んでおり、欧州では52.6パーセント、米国では21.6パーセントとかなりの割合になっていると紹介されています。この数字は驚きです!
そもそもESG投資とは何なのでしょう?筆者は「ESG投資」を「ESG要因(非財務要因)を考慮した投資」と定義しています。ESG投資の初期にはSRI(Social Responsible Investment、社会的責任投資)や不投資運動(たばこや石油企業などに投資しない運動)といった投資行動が見られました。その後、様々な投資手法が確立されていきます。
一つ目の投資手法は、「ネガティブスクリーニング」、「不投資」と呼ばれるもので、ESGの観点から投資すべきではないと考えられる業種や企業を外すというものです。外される銘柄群の数が多くないことから、市場の指数に近く、投資するに際して問題が生じにくいので、ESG投資の中ではかなりの割合を占めています。
二つ目は、「ポジティブスクリーニング」で、ESGの観点で評価できる銘柄をピックアップしてポートフォリオを構築するというものです。「ネガティブスクリーニング」に比べると市場の指数に比べてアクティブ度合いが高いので、投資する難易度は少し上がります。また、ユニバースの全銘柄を評価しないと、その中から投資対象銘柄をピックアップできないので、評価のためのコストがかかるという問題もあるようです。
三つめは、「ESGインテグレーション」というもので、もともとある投資手法に対して、ESGの分析を追加して行うものです。投資する難易度はもともとある投資手法で行う場合とあまり変わらないでしょうが、パフォーマンス評価においてESG分析がどのくらい寄与しているのかがわかりにくいという難点があるようです。しかしながら、実践的であり、この投資手法は「ネガティブスクリーニング」に次いで運用資産残高が多いようです。
この他にも、「テーマ投資」という例えば再生エネルギーというテーマに沿った銘柄に投資するような手法や、「エンゲージメント」という投資先企業にESGへの取り組みを働きかけるような手法が紹介されていました。どの手法にも長所、短所がありますが、ESGの観点を取り入れることがパフォーマンスの向上に繋がるように説明できることが大事な問題であると思います。その問題への解決案を提示してくれるのが次の論文です。
2本目の論文(ESG投資と企業価値:CSR to CSVの観点からー伊藤友則氏)は、CSR(Corporate Social Responsibility)という、いわゆる社会貢献の活動ではなく、CSV(Creating Shared Value)という、「社会貢献と経済的な利益を同時に達成する活動」をしていかなければいけないという議論を展開します。
近江商人の「三方良し」の考え方がしっくりきますでしょうか。「売り手良し」、「買い手良し」、「世間良し」の三つの「良し」という考え方です。長期的な繁栄のためには「世間良し」という考え方が無いと、不祥事などで企業への信頼を大きく失墜することになりかねませんので、昨今は特にですが、この考えが重要になってきていると思います。
そして、CSV(Creating Shared Value)はなかなか難しいということも議論されます。「CSVにはイノベーションが必要である。」「CSVには顧客と従業員と社会の共感がカギになる。」「CSVには社会に社会貢献を伝えるコミュニケーション力が必要である。」「CSVには成長を促す企業文化が重要な要素になる。」「CSVには強いリーダーとトップのコミットメントが無いと実現できない。」といったことが研究の結果として提示されます。研究結果をもとに実践的な提案にも踏み込んでいて、この論文、日本の上場企業のリーダー、またはリーダーに進言できる人にはぜひ読んで欲しいと思う内容です。
また、投資家サイドに対する提案もあります。企業が「短期的な利益」と「CSV的な考えから産まれるであろう中長期的な利益」をどうバランスよく創出していけるのかが問題になってきますが、投資家サイドはどういった開示情報を欲しているのかを明確化してコミュニケーションすること、大口機関投資家が中長期的な投資を進めていくリーダーシップを持つことなどが提案されています。
3本目の論文(ESG指数とパッシブ運用ー内誠一郎氏)は、著者がMSCIの方ですが、MSCIが提供するESG指数でMSCIが採用した「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」や「MSCI日本株女性活躍指数」を説明しています。GPIFがこれらの指数を採用することで、市場全体がESG的な観点をもってパフォーマンスが上がるようにアナウンスメント効果を狙っているという話も出てきます。指数そのものが、単純な市場の指数以外に、スマートベータ指数やテーマ指数など様々な指数が開発されてきていますので、MSCIのような指数屋の役割もESG普及にとって大事であると言えますでしょうか。
4本目の論文(エンゲージメントを通じたESGの推進ー櫻本惠氏、加藤泰浩氏、村岡義信氏、鈴木俊一氏)は、アセットマネジメントOne所属の四氏が、1本目の論文であった「エンゲージメント」という投資先企業にESGへの取り組みを働きかけるような手法をどのように実践しているのかを紹介しています。企業との対話を多く行っていることや投資家でもあることから、企業の現状と投資家の現状をしっかりと認識したうえで、今後どのように双方が進んでいけばよいのかを、評価方法や例示を絡めて提案しています。こちらもESG普及にとって大事なものであると思います。
というわけで、今月の論文は、ESGに関するものでした。ここ数年で爆発的に普及すると言われながらも、いまだ普及に至っていないESG投資ですが、もともと日本人には馴染みやすい投資手法であると思いますし、普及に対する障害は取り除かれ、あとは実行に移す段階のみと思います。2018年の投資テーマになってくるでしょうか?
ちなみに、2018年の証券アナリストジャーナルの表紙は「青」です!
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