証券アナリストジャーナル12月号やすべえです。「証券アナリストジャーナルを読んで」シリーズ、この投稿で、丸2年を迎えます!いつもお読みいただいている皆様、ありがとうございます!励みになります。とはいうものの、自分が理解しているかというチェックも兼ねて書いておりますので、こちらに書く深さにバラツキがあります。ご容赦下さいませ!

また、私のサイトは、月初に、前月号の「証券アナリストジャーナルを読んで」シリーズのアクセス数が増える傾向があります。これは、「更新まだか!?」という良いプレッシャーとして受け止めております。今月分はまずます早くお届けできたのではないかと思います!

 

さて、今月の特集は「ビッグデータと金融の未来」です。証券アナリストジャーナルの1本目の論文は、特集を理解するための導入となるようなものが多いですが、今回の1本目はヤフー(株)の執行役員の方の書かれた論文ということで、いつもと毛色が違う感じがします。「世の証券アナリストよ、もっとビッグデータに関して研究を重ねなさい!」という編者のメッセージでしょうか!?

 

 

では、1本目の論文(企業間データ連携が生み出す価値の可能性ー佐々木潔氏)から読み進めていきます。冒頭で書きましたが、佐々木潔氏はヤフー(株)の執行役員でCDO(チーフデータオフィサー)という立場の方です。

「データは21世紀の原油である」という話から始まります。そして、今回のAIブームは「ビッグデータ、処理基盤、サイエンスの三本柱がそろ」っているので、本物だ!という議論が続いていきます。総論としては、ヤフーでのデータの利用活用はかなり進んできていて、様々なデータを組み合わせることで、よりデータが活きるということが分かってきたらしく、「データフォレスト構想」という企業間のデータ連携なんていうものに進んでいこうという話になっています。

大事なこととしては、データの貯め方として、「サイロ化は避けなければいけない」というもので、小規模の効率的なデータベースをいくつか作って、それを繋げるときに非効率になるケースが出てきてしまうので、あらかじめデータのフォーマットや運用ルールを決めておいたほうが良いということです。それをしっかりとやるために、ヤフー(株)はCDO(チーフデータオフィサー)を設置したのですね。。

そして、「データフォレスト構想」というのは、「森の実りを動物や植物が分け合って森が成長していくエコシステムになぞらえ」たものだそうで、企業間のデータ連携という事で、あやしい気もしますが、ヤフーがオーガナイズするのであれば変なことはしないんじゃないかという安心感を持ちます。どうなりますでしょうか。これからの展開に期待したいと思います。

 

 

2本目の論文(高頻度データを通じたニュースと株式市場の関連性の分析ー菅愛子氏、高橋大志氏)では、「短期的な株式価格変動とニュース記事」の関係性を調べるというある意味王道の分析と言えるものかと思います。

先行研究の紹介が沢山あって有難いところです。「SNS情報が市場に与える影響」として、インターネット掲示板の投稿数の増加がその後の株式価格変動率の上昇を予測し得るなどというAntweiler and Frankの論文などが紹介されています。

この論文では半年間のニュース記事と価格変化率を学習モデル作成に用いて、次の半年間で検証していますが、一定程度の精度を示していると結論付けています。こういった分析は、すぐにトレーディングのアルゴリズムに入れれるようなものなので、「いかに早く執行出来るか」、「いかにアルゴリズムを自己進化させるか」みたいなことが大事になってくるのかなと思います。

 

 

3本目の論文(ビッグデータと会計研究ー村宮克彦氏、竹原均氏)では、「業績予想修正の開示というイベントに対する市場反応」について分析した結果が報告されます。こちらもすぐにトレーディングのアルゴリズムに反映させることのできるものですね。

こちらの論文にはデータと会計研究の歴史が紹介されていて、60年代に研究の歴史がスタートし、70年代、80年代には「分析単位が月次・週次から日次へと精緻化された」とあります。90年代には「ティックデータが利用可能に」なり、分析が「日時ベースから日中ベースへ」、そして「流動性や私的情報に基づく取引という概念」が採り入れられてきたとあります。すごい歴史ですね。わたしはぎりぎり90年代に業界に入った若造ですので、歴史を知っているとはとても言えませんが、ティックデータが利用できるようになって、夢中に研究や分析をしていたことを思い出します。

当時私が好きだったのが「オーダーインバランス」というもので、積極的に買う人が多いかどうか、指値注文は買い方、売り方、どちらが多いのか、などなど、いろいろと考えていました。あとは、「デプス」なんていうものも好きで、板にある売り物や買い物が、インデックスや他の銘柄とのアービトラージで指されているので、指値がどんどん移り変わっているオーダーだとか、下の指値で売り込まれて近づいてきたら取り消されてしまうオーダーだとか、本当に指しっぱなしの自然なオーダーなのか、板付きから把握する方法とか考えていました。懐かしい。

この論文では、業績予想修正の開示の前と後での出来高や価格調整のスピードを、売買の別、アローヘッド導入前後で調査しています。「売り」の価格調整のスピードというのは、遅いなぁとずっと思っていましたが、この調査でも遅いと出ています。買い持ちのポジション残高の確認とか、借株できるかどうかの確認とか、テクニカルな問題も理由になるのでしょうかね。いやはや、懐かしい思い出がよみがえる論文でした。

 

 

4本目の論文(投資家の注目が新規公開株式の価格形成に与える影響ー高橋秀徳氏、岡田克彦氏)は、何と言いましょうか、とても意欲的な研究と思います。IPOの銘柄の初値がどのように形成されるかを、「投資家の注目」という観点で分析するというものです。

IPOの初値に関しては、セカンダリーのトレーダーは関与しにくいこともあって、真剣に考えたことがありませんでした。

しかし、考えてみると、仮説としてかなり面白いものだとわかります。公募価格はブックビルディングなどで需要調査があるわけですが、その前に決まるバリュエーションなどによって、ある程度機械的に決められているような気もしますので、初値は人気というファクターで決まるのかもしれないと考えられるからです。

実際、この論文ではIPO企業のホームページの閲覧数を用いて、回帰分析を用いています。有意に「PVが高いほど初期収益率が高くなる」という結果です。追加の分析で、TRADER’S WEBの予想初値を用いて、本当に「PVが高いほど初期収益率が高くなる」のかを検証しているのですが、マーケットをよく知る人が分析している感じがすごくします。

 

 

 

というわけで、今年最後の証券アナリストジャーナルは「ビッグデータと金融の未来」という特集でした。私としては、トレーダー時代の研究と実践の思い出がよみがえってくるものでしたが、皆様にとってはどのような感想を持たれましたでしょうか。来年もよろしくお願いいたします♪

 

 

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