証券アナリストジャーナル6月号やすべえです。証券アナリストジャーナル、今月の特集は、「グローバル流動性と資本市場」です。本年4月からですが、ページの下の方に動画版を付けていますので、あわせてご覧いただけましたらと思います。

 

「流動性」ってすごい大事で、私は「流動性」と「リターン」と「リスク」で「資産運用のトリレンマ」とよく言っています。つまり、「高流動性」、「ハイリターン」、「ローリスク」の3つを同時に享受することは出来ないということです。

「高流動性」、「ハイリターン」であれば、「ハイリスク」になるし、
「ハイリターン」、「ローリスク」であれば、「低流動性」、になるし、
「ローリスク」、「高流動性」であれば、「ハイリターン」になるという話です。

 

冒頭から余談になってしまいましたが、1本目の論文から読み進めていきます。

 

 

1本目は、論文「主要各国の非伝統的金融政策について(地主敏樹氏)」です。

1本目の論文らしく、特集のベースとなるような論文です。「非伝統的金融政策」について、しっかりと説明していただいて、非常に勉強になるものでした。

 

「はじめに」に書かれているのですが、筆者は、「非伝統的金融政策が標準的なものとなってしまうかもしれない」と書いています。私もそう思っていましたので、筆者はどのような思いからそう思っているのか気になりながら読み進めました。

非伝統的金融政策は「危機直後の金融システム安定化という短期的課題」と、「その後に深まり持続した景気後退の安定化という長期的課題」への対応として行われていると書いてあります。前者の課題はまだしも(時が経てばいずれ安定しそうだし・・・)、後者の課題が解決するのかという懸念が頭をよぎります。

だって、「景気後退の安定化」というのは、だらだらと出血していて止血する見込みが低い身体に輸血を続けるようなもので、輸血を止めることは出来ないんじゃないかと思えるからです。思考が単純すぎますでしょうか・・・。

後半には、「世界の中央銀行家に対して実施されたアンケート」があり、「多くの中央銀行家がフォワードガイダンスは今後も利用されることになると回答している」と出てきます。つまり、多くの中央銀行家も「非伝統的金融政策が標準的なものとなってしまうかもしれない」と思っているということになります。

 

本論文、初めから終わりまで面白いのですが、あと一点だけ、「日本における金融政策運営の変遷」の話を。

私は今44歳なので、対ドル為替レートが1ドル360円だった時代(~1971年)は知らないのですが、当時は金利を動かすことは「国際金融のトリレンマ」から分かるように、叶わなかったわけで、量的なコントロールが活用されていたそうです。

変動相場制に移行してからは、金利を調節することが可能ということで、「公定歩合」を調節することが活用されていました。「公定歩合」って古い響きのする言葉ですが、日銀が民間銀行に貸し出しをする時のレートということです。「公定歩合アゲ」→「民間への貸出金利アゲ」となるので、景気の調整として使えたということですね。

90年代に入り、金融規制緩和が進んでからは、日銀だけが民間銀行への貸し手ではなくなってきて、「公定歩合」の調節ではワークしなくなってきたことから、「銀行間の短期資金市場の金利=コールレート」を市場で売買することによって金利を調節するようになったとなります。

 

改めて思うのですが、「証券アナリストジャーナル」は、金融における知識と知恵が満載です。昔は、証券アナリストでないと読めなかったわけですが(入社して証券アナリストを取得するまでは先輩に借りてたことを思い出します・・・)、今はメルカリで買える時代です。誰でも、少額で金融における知識と知恵が手に入る(その分、情報過多で取捨選択が難しいですが)、素晴らしい世の中になったものです!

 

 

2本目は、論文「過剰流動性と債券市場(森田長太郎氏)」です。

この論文には、興奮しました!テレビにもよく出ていらっしゃって、ビシッとした意見をお持ちで人気のある森田長太郎氏ですが、この論文の主張は意欲的で、挑戦的ともいえるでしょうか、けっこう激しいものとなっています。ジャーナルの論文って普通10ページなんですが、この論文は13ページあって、「削るところない感」もあって、いやー、興奮しました!

大胆な問題提起に対して、可能な限りの使えるデータと事実を持ってきて、議論を進めていきます。「うーん、これで論理的に盤石か?」と考えてしまうところは、実験室内で行われる実験では無く、外部要因が排除できませんので、有ってしょうがないところですが、そんなことは個人的には些細なことだと思います。早く、内容を書かないと・・・。笑

 

本論文、何を言っているかというと、「2010年代」は「中央銀行による市場介入の時代」で、「リスクプレミアムの極端な縮小をもたら」し、「実体経済への波及パスは弱く」(介入は実体経済にあまり貢献していないということです)、「金融仲介機関の収益獲得機会を奪い」、「実質的な意味での市場流動性を損なう結果に終わっている」ということを言っています。

 

筆者は題名になっている「過剰流動性」という言葉が、どういったものを意味しているのかという漠然とした問題提起を行い、「債券市場」の変化などを精査することで分析していきます。執念を感じるのが、「過剰流動性」という言葉が新聞紙上でどういった言葉とともに用いられているかという調査です。80年代までは「インフレ」という言葉とともに用いられていて、2000年代前半、2010年代後半は「株価」という言葉とともに用いられているということです。

議論はいろいろと進んでいくのですが、「レバレッジ」を調査することに行きつき、「総債務」、「民間債務」、「政府債務」の対名目GDP比の数値に着目します。「民間債務」の増減が重要であると主張し、日本においては、「総債務」は「政府債務」の増加によって増えているけれども、「民間債務」は減少しており、「政府債務」が増えていても有効な「レバレッジ」の拡大に繋がっておらず副作用的に「日銀による債券市場でのリスクテイク増加」が「民間による債券市場でのリスクテイク減少」を呼び、「民間による債券市場における流動性低下」という結果に繋がってしまうというところまで議論しています。

 

森田長太郎氏の去年の著作に「経済学はどのように世界を歪めたのか 経済ポピュリズムの時代」がありますが、これは読まないといけませんね!

 

 

3本目は、論文「異次元緩和とJ-REIT市場(宮川大介氏)」です。

本論文では、J-REIT市場が期間期間でどういった要因で動いているのかを分析するものです。

オフィスREIT、住宅REIT、商業・物流REITといういわゆるセクター指数のようなものをを使い、資産効果(株式などが上昇して、不動産市場が上昇する効果)と金利効果(金利が下落して、調達金利などの観点から不動産価値が上昇する効果)、どちらが効いているかを回帰分析するという、言ってしまえばシンプルな分析です。

結果は、2013年4月から2016年1月までの期間では、どの指数も資産効果がプラス、金利効果がマイナスと予想通りとなっていますが、2016年1月から2019年8月までの期間では、資産効果の効果がまちまちで有意ではなく、金利効果の効果が弱くなっています。

 

2013年4月と言えば、黒田バズーカと騒がれた時期で、資金がじゃぶじゃぶになって、金利も低下していて、REITは借り換えるたびに金利が下がっていく期間だったと思います。2016年1月からはマイナス金利政策などが入りましたが、REITの借り換えの効果は落ち着いていた期間だったと思いだします。

2016年1月からの資産効果がまちまちになっている(住宅REITだけ効いている)のは、イールドハンティング的な動きが強くなって、オフィスREIT、商業・物流REITよりも住宅REITのほうに絶対的な金利水準に割安感が残っていたからかなと、なんとなく推測します。

1本目の論文で「非伝統的金融政策が標準的なものとなってしまうかもしれない」なんてありましたが、そうなると「イールドハンティング的な動き」は続いていくはずなので、今後の分析も非常に重要であり、今回の論文に出てくる以外のファクターも入れて分析してみたいと思いました。分析して見ると意外にも、『最近のREIT市場の嗜好は「NAV」とか「予想分配金利回り」で決まっている』なんていう結論に片付いてしまうかもしれません!

 

 

4本目は、論文「ASEAN諸国に向かう資本フローの動向と影響(清水聡氏)」です。

ASEAN諸国に限らず、新興国の資本フローは、当該新興国のことも重要ですが、先進国の影響も大きなものになってきます。本論文は、それら要因に関する分析を、沢山のデータによって、解きほぐすというものになります。

 

押さえておきたいのは、「先進国から新興国に向かい資本フローの決定要因には、先進国側のプッシュ要因新興国側のプル要因がある」ということです。さらに、「資本が急激に流出する状況ではグローバルな要因の力(先進国側のプッシュ要因)が強く働く」ということです。世界危機みたいな状況では先進国側のプッシュ要因の影響が大きく、新興国側のプル要因で資本フローを流入させる力があったとしても、全体としての資本フローの流出に対して抗えないとなります。

ちなみに、先進国側のプッシュ要因というのは、「グローバルなリスク回避度、国際商品価格、先進校の経済成長率・金利など」で、新興国側のプル要因というのは、「新興国のマクロ経済、政策、市場の不完全性など」ということです。

 

後半では、新興国の金融リスクを「①マクロ経済状況」、「②国内金融の脆弱性」、「③対外的脆弱性」というふうに分類して、分析していきます。このように、改めてリストしているものを読んでみると、新興国株式や新興国債券での資産運用をする上で、俯瞰的に考えていかなければいけないポイントが見えてきます。勉強になる論文でした。

 

 

最後に!

今月号は、「グローバル流動性と資本市場」という特集でした。非伝統的金融政策がワークするのかという研究は活発に行われている分野ではあるものの、「これだ」という結論は見いだしにくいものです。さらに、各国の行動をとがめるような研究結果が出たとしても、行動を変化させることが時に難しい可能性も感じます。「通貨の信認」という視点で、しっかりとウォッチしていかなければならないと再確認した特集でした。

今月も本記事をお読みいただきまして、ありがとうございました!

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