やすべえです。今月も、2020年10月の証券アナリストジャーナルを読み進めていきまSHOW!

今月の特集は「不正会計」という、シンプルかつ深いテーマです。解題において、2019年の不適切開示企業の社数が過去最多を更新する70社に達していることや、各論文のポイントが書かれています。記憶に新しい「ラッキンコーヒー」や「ワイヤーカード」といった名前も出てきます。

動画版では1~3本目の論文についてお話しています。こちらのリンクから、または埋め込みの動画で見てください!

 

1本目の論文は「不正会計の実態分析(一ノ宮士郎氏)」です。

不正会計をする企業ってどういった企業なの?」という純粋な問いかけに応えるような論文です。2004年から2018年までの不正会計事例を調べていくという、いわゆる「プロファイリング」が行われます。

あくまで平均値のデータから言えることですが、「東証一部に上場している中堅以上の企業規模で、同族色は強くないが、創業から半世紀に近い社歴を持ち・・・」といった分析結果が結論として出てきます。ただ平均値を取っただけとも思えるかもしれませんが、十分に興味深いものかと思います。

興味深いとは言え、この平均値のデータでは、「表面的に健全な印象」があるので、「不正会計を探知することは至難の業」と言っています。「不正会計を探知するためには・・・」という答えは3本目の論文がある程度答えを出してくれています。後程、紹介します。

 

 

2本目の論文は、「不正会計開示後の企業対応と株価形成(尾関規正氏)」です。

投資家的目線では、今月の中で最も興味深い論文でした。

題名の通りですが、不正会計開示後の「企業対応」と「株価形成」の関係性を分析していきます。

「企業対応」は「経営者の交代」、「社外取締役の増加」、「第三者委員会による調査」の3つを採り上げています。私は変数が多い分析が好きでは無いので、「3つ」なんていうシンプルな分析をズバッとしている所に、まずもって共感を感じます。

 

肝心の「株価形成」ですが、不正会計開示前12か月から、不正会計開示後24か月までを見ていて、全体としては不正会計を開示した企業はアンダーパフォームしています。こちらは予想通りでしょうか。

その中で、「経営者の交代」、「社外取締役の増加」が行われた企業の株価はアンダーパフォームして回復しない、投資妙味の薄いチャートとなります。

一方、「第三者委員会による調査」が行われた企業の株価は不正会計開示後4カ月でアンダーパフォームが大きく出ますが、その後の20カ月でそのパフォーマンス差が縮まってきています。サンプル数が少ないので大数の法則が使えないかもしれませんが、ロングショート戦略のアイディアとなりそうです。つまり、「第三者委員会による調査」が行われた企業を対象に、不正会計開示後4カ月を目途に、不正会計開示企業をロング、類似企業(論文中にどう抽出するかが載っています)をショートとする戦略です。

 

 

3本目の論文は、「不正会計と監査(吉見宏氏)」です。

この論文では、「不正な財務報告への監査の対応」について、詳細に過去を振り返っています。エンロン、ワールドコム、オリンパス、東芝といった社名が出てきます。

大きな不正会計発覚の後には後付けで規制などが出来ていることも紹介されます。同様の不正会計を未然に防ぐといった効果があるのでしょう。しかし、不正会計は手を変え品を変え出てきます。困った話ですね・・・。

引き続き過去を振り返っていきますが、大きな不正会計発覚のいくつかの事例の中に、「内部通報制度」によって発覚したと出てきます。本論文は「不正会計と監査」というタイトルの論文なので、「内部通報制度」について声高に言及はされていませんが、私はここに大きなポイントがあると感じました。

投資家は監査に不正発見を期待しているように思いますが、これはお門違いで、期待してもなかなか見つけられるものではないんですね。ここは視点を変えて、内部通報制度を充実させることによって不正発見を期待するのが良いのかと思いました。

 

 

4本目の論文は、「会計学研究における不正会計予測モデルの展開(首藤昭信氏)」です。

3本目の論文で言及したように、「内部通報制度の充実」という考えもあるけれども、やはり公表されているデータから不正が予測できれば嬉しいですよね。

ということで、本論文では「財務比率による予測モデル」、「機械学習を利用した予測モデル」、「テキスト分析に基づく予測モデル」などの研究結果をおさらいしてくれています。

Beneish, M. D. [1999] “The detection of earnings manipulation” Financial Analysts Journal 55 (5), pp.24-36

Lee et al. [1999] “The difference between earnings and operating cash flow as an indicator of financial reporting fraud.” Contemporary Accounting Research 16 (4), pp.749-786

Dechow et al. [2011] “Predicting material accounting misstatements,” Contemporary Accounting Research 28 (1), pp.17-82

Perols, J. [2011] “Financial statement fraud detection: An analysis of statistical and machine learning algorithms,” AUDITING: A Journal of Practice & Theory 30 (2), pp.19-50

Cecchini et al. [2010] “Detecting management fraud in public companies,” Management Science 56, pp.1146-1160

Bao et al. [2020] “Detecting accounting fraud in publicly traded U. S. Firms using a machine learning approach,” Journal of Accounting Research 58 (1), pp.199-235

Purda, L. and D. Skillicorn [2015] “Accounting variables, deception, and a bag of words: Assessing the tools of fraud detection,” Contemporary Accounting Research 32 (3), pp.1193-1223

などが紹介されています。

 

 

最後に

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!

今月号は、不正会計について満遍なく知識が得られるような構成で、私のような会計に詳しくない者には有難い特集でした。

余談ですが、先月、「このマニアックな投稿を毎月楽しみにしている」と言われ、嬉しく思い、そして驚きました。自己満足+備忘録のテイストがする投稿ですが、読んでいただけるとモチベーションがさらにアップします!ありがとうございます!!!

それでは!