証券アナリストジャーナル2020年11月号やすべえです。今月も、2020年11月の証券アナリストジャーナルを読み進めていきまSHOW TIME!!

今月の特集は「脱株主第一主義の行方」というテーマです。「なにそれ?」という感じかもしれませんが、簡単に言うと、「株主ファーストで他のことは考えなくて良い!」という考え方から「株主以外にも、顧客とか従業員とか取引先とか地域社会とか、いろいろ考えたほうが良いでしょ!」という考え方(ステークホルダー主義)への流れはどうなるか、といったものです。

長~~い間考えられているテーマですが、米国の経営者団体(ビジネス・ラウンドテーブル、BRTとよく言われます)が2019年8月あたりから「株主第一主義」を考え直しませんか?という立場になってきていて、古くて新しいテーマとなっているようです。今月の証券アナリストジャーナルでは、様々な見地からの論文を読むことによって、複合的に視座を持つことが出来る仕掛けとなっています。それではどうぞ!

動画版では1~3本目の論文についてお話しています。こちらのリンクから、または埋め込みの動画で見てください!

 

1本目の論文は「株主第一主義の意義と合理性(田中亘氏)」です。

副題として、「法学の視点から」となっています。米国会社法を説明することで「株主第一主義」とは何かを考え、ひるがえって日本の法から見て「株主第一主義」ってどうなの?というのを見ていきます。

 

筆者は米国において、二つの会社法のルールによって構成されると言っています。一つは、「株主が会社経営に対する究極的なコントロール権を持つこと」で、もう一つは、「取締役は、株主の利益の為に会社を管理・運営する義務を負うこと」です。さすが、「株主第一主義」の本場ともいえるような国なので、厳しいです。

しかし、この二つ目のルールにおける「株主の利益」というのは、短期的に会社の利益にマイナスとなるものの長期的に会社の利益にプラスになると考えられるならばOKというスタンスのようです。賃上げ、製品やサービスの値下げ、先行投資はOKということになります。

このことから、「BRTが株主第一主義を考え直しませんか?」と言う議論は不要なんじゃない?そのままで問題ないんじゃない?という考え方もあるようです。読んでいますと、たしかに!と思うところです。

 

一方、日本はどうなっているかと言いますと、明示した法令の規定は存在しないものの、上段の二つの会社法のルールのようなものが存在するといい得ると言っています。ちょっと曖昧です!

ただ、持ち合いなどの安定株主政策が「株主が会社経営に対する究極的なコントロール権を持つこと」というのを弱めてきたというのは歴史的には大いにある話です。持ち合い解消などが進むにつれて、株主のコントロール力に遅まきながら気づいて、経営陣と株主の間でドタバタ劇になったというのは今でもよくある話と思います。

ということで、「ステークホルダー主義」から「株主第一主義」の方向へふんわり漂っているというのが日本の現状なのかと思います。

 

総論として、法学的に見てきましたが、現行である程度の裁量もあることだし、今のままで問題ないですよね!といった感じとなります。

そして、矛先は「市場」に向けられます。市場が効率的であれば問題なく現行の「株主第一主義」がワークするだろうけど、非効率的だから「ショートターミズム(短期志向)」とか起こっちゃうんだよね、という話です。まぁ、それはその通りなのですが、今の経済学ってのは、非効率的なマーケット参加者を前提条件として、どう枠組みを作っていくかみたいなことが大事なんじゃないかなとも思います。そうなると「ステークホルダー主義」というのを大きく掲げてみるのもアリのような気がして・・・。

なにはともあれ、非常に勉強になる論文でした。

 

2本目の論文は、「株主第一主義か、ステークホルダー主義か(広田真一氏)」です。

1本目の論文は、株主第一主義を肯定するものでした。そして、日本においては、「ステークホルダー主義」から「株主第一主義」の方向へふんわり漂っている・・・なんていうことを書きましたが、もうちょっとはっきりさせようぜ!というのが2本目の論文となります。

 

筆者は、「株主第一主義」、「ステークホルダー主義」、両者の間をふんわり漂っている・・・というのを国別に解き明かそうとします。具体的にはLME(liberal Market Economies、自由な市場経済)と、CME(Coordinated Market Economies、調整された市場経済)に分けて考えますLME国としては、アメリカ、イギリス、カナダCME国としては、フランス、ドイツ、日本としています。

LME国は「株主第一主義」寄りで、CME国は「ステークホルダー主義」寄りで、その国の資本主義の形と密接に関連していると言っています。そして、期間期間で「株主第一主義」寄り、「ステークホルダー主義」寄りというのが少し変わっているという分析が入ります。今後は「ステークホルダー主義」寄りになるという予想も終盤で出てきます。

 

今回、ジャーナルの特集が「脱株主第一主義の行方」となっています。よって、「株主第一主義」、「ステークホルダー主義」という枠組みで見ていくことが特集の主旨の通りであって、文句はないところなのですが、その枠組みでは捉えきれない「大きな変化」があるのではないかと読んでいて思いました。

それは、「企業のあるべき姿」、「働く人のあるべき姿」が変わっていることです。有形資産重視の時代が終わり、無形資産が大注目され、セス・ゴーティンが『「新しい働き方」ができる人の時代』で言ったような人材が求められる中で、「企業価値」の内容が変化しているということです。

その「企業価値」の変容を考える中では、株主の役割や重要性は引き続きあるものの、移ろいやすい顧客や取引先に対してのコミットメントが必要になってくるでしょうし、従業員は価値自体が上がっているでしょうし、ネットワークの発展でオープン化されている中では地域社会へのコミットメントは新しい形に変容する必要があるかもしれません。つまるところ、著者の主張と同じところになりますが、「ステークホルダー主義」寄りになるということになるでしょうか。

自分の思考が収束したり、発散したり、再び収束したりになって、下手なまとめになってしまいましたが、思考の右往左往まで備忘録がてら書きました。すみません!動画版ではもう少しまともにお話しています!

 

3本目の論文は、「株主が主導するステークホルダー主義への転換(雨宮愛知氏)」です。

副題は「米国における脱株主第一主義の動き」となっています。様々な周辺のデータを提示することによって、様々な要因で脱株主第一主義になってきているのでは?と考えさせてくれる論文です。

 

まずは、米国の労働分配率の低下です。「1990年代後半までは緩やかな低下にとどまっていたものの、2000年代入り後、大きく低下した」とし、株主第一主義が行き過ぎてしまっているのではという問題を投げかけます。

所得五分位別の家計所得の推移のデータが出てきます。「企業の取り分が増える一方、労働者の賃金上昇率が低迷しているが、労働者の間でも賃金格差が広がっている」とし、トマ・ピケティの「21世紀の資本」を思い出しますが、資本主義≒株主第一主義は行き過ぎていると指摘します。

株主がESG投資に注目する傾向も挙げられています。これにより、ESGのS、Socialとなりますが、「顧客や従業員、サプライヤーの利益」といったものが注目され、「ステークホルダー主義」寄りになっていくという議論です。

 

2本目の論文で行ったり来たりしていましたが、本論文は、今世の中で起こっている現象から「ステークホルダー主義」寄りになってきているという流れで、すんなり腹落ちするものでした。

 

4本目の論文は、「国際比較から考える日本企業のコーポレートガバナンスの現在地(齋藤卓爾氏)」です。

こちらは「企業パフォーマンスの国際比較を行うことによって、日本企業のコーポレートガバナンスの現状を明らかにする」という論文です。

2本目の論文で言及されていました、「LME」、「CME」といった違いでこれらの数値は変わってくるものと思いますし、コーポレートガバナンスという一軸で国別比較をするのはちょっと乱暴なところがあるのかなと思いながら読んでいました。

著者は「ファミリー企業のコーポレートガバナンスに関する実証研究」というタイトルの論文を書かれているようなので、そういった論文を読みつつ、理解を深めていけたらと思います。

 

最後に

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!

今月号は、脱株主第一主義の行方についてということで、当初とっつきにくいテーマかと思いましたが、論文のセレクションに多様性があり、4論文の読了後はかなり理解度があがりました。そのあたり、伝わりましたでしょうか!?

来月もお楽しみにしていただけたら嬉しいです!それでは!