やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『女性活躍推進』という特集です。

私は、何も否定することなく、女性の活躍を推進したい思いを強く持っています。
しかし、今の日本で、女性活躍推進のために行われている様々な議論や施策はあまり上手くいっていないか、少なくとも結果が出ていないと判断しています。
なぜ、日本における女性活躍推進の議論や施策は上手くいっていないのでしょうか?

4本の論文を読み進めながら、その答えを求めていきたいと思います!

 

1本目の論文は『女性の活躍の場の拡大と企業の人材マネジメントの課題(佐藤博樹氏)』です。

本論文は、女性が活躍するのために人材マネジメントをどうしていくべきかを「王道的」に書いています。
「おわりに」の章が非常に良くまとまっていますので、そこから内容をピックアップしますと、

①女性管理職を増やすためには課長以上の役職になりうる総合職として入社する女性を増やすべき
②結婚や子育てなどのライフイベントに対する支援(就業と共に両立できる支援)をすべき
③カップルの子育てが当たり前になる社会や企業にしていくべき
④女性を含めた多様な部下をマネジメントできる管理職の育成・登用をしていくべき

といったことになります。

①~④、ごもっとも!というところですが、こういった「王道的」施策を行って、日本企業は大きく進歩・進化できなかったわけです。
となると、対症療法的ではない、既存の枠組みを壊していくようなアイディアが求められるのではないでしょうか?

例えば、「男性は役立たず」という前提を置いてみると良いかもしれません。
女性のみでワークする世界を考えてみると、「共働き」や「共育て」と考えるよりも、シングルママが活躍できるような制度設計を行うでしょう。
ライフイベントでキャリアを中断するのは普通ですから、「終身雇用」前提で考えるよりも、人材の流動性を高めるために、年功序列を廃止するでしょう。

このような感じで世の中を変えていくとして・・・。
果たして、経済的にどう変わっていくでしょうか?
そして、人間的な営みがどう変化していくでしょうか?

 

2本目の論文は『女性活躍推進が企業経営に与える影響(福田智美氏)』です。

本特集で2023年にノーベル経済学賞を受賞したゴールディン氏の研究に言及している論文が本論文だけだったのはちょっと意外でした。
さておき、本論文では、日本における女性活躍の現状はゴールディン氏の研究でいう「第3グループ」のあたりで、今の米国の「第5グループ」と大きな差があるとしています。

この他に本論文では、女性活躍推進に関するインタビュー調査による定性的分析が行われていて、非常に参考になります。
赤裸々な内容で外野から見ると興味深いのですが、当事者として考えると、「男だから女だからって言うな!」って思ってしまう意見がそこかしこにありました。

 

3本目の論文は『女性活躍推進と生産性やイノベーションとの関係(山口晃氏)』です。

本論文で興味深いのは、「相関関係なのか?」「因果関係なのか?」という問題を追求しているところです。
つまり、「女性活躍が推進されていること、労働生産性が高いこと、両者には関係性があるといっただけの話なのか」、「女性活躍が推進されると、労働生産性が上昇するという順序のある話なのか」という違いを見極めています。

著者の結論としては、因果関係があるとしています。
ただ、僕の理解不足で、本当にそうなのか、また、因果関係があるとして、他にどういったことに留意すべきなのかというところまでは分かりませんでした!

 

4本目の論文は『取締役会のジェンダー・ダイバーシティとトークニズムの問題点(中嶋幹氏)』です。

「トークニズム」とは、特に職場や教育の文脈の中で人種的またはジェンダー平等の外観を与えるために過小評価されたグループから人々を募集することによって、マイノリティグループのメンバーに包括的であるための機能的または象徴的な努力のみを行う慣行、だそうです。(Wikipedaの機械翻訳より)

ロザベス・モス・カンターという人の「企業のなかの男と女」という本が参考文献として紹介されています。男女の比率が「半々」から「60:40」までであれば、「均整の取れた集団」として、個人の成果が男女分類での要因となることは無いそうです。
これが「65:35」になると、「傾いた集団」となりますが、少数派は集団としても個人としても存在することが可能だとし、「85:15」となると、「歪んだ集団」として、多数派が少数派の特徴を支配し、少数派が個人として扱われず「トークン(Token)」として扱われるとしています。

日本企業において「たった1人の女性の社外取締役」というケースが多くみられますが、カンターさん的に考えれば「歪んだ集団」であり、当人は個人が発揮できないとされます。こんな状況で女性活躍推進と言っても、暖簾に腕押しになってしまうでしょう。
東証プライム市場上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上とする目標というのは、「歪んだ集団」をなんとか「傾いた集団」まで変化させて、少数派が集団と個人として存在できるようにする最低限の数字なのかもしれません。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『女性活躍推進』という特集でした。

さて、女性活躍推進を極限まで出来たとして、全ての企業はエクセレントカンパニーになれるのでしょうか?
もちろん、その答えは「否」で、女性活躍推進と同時に、企業が進化するための、全人材の活躍が推進されるような仕掛けが必要となります。
今月の証券アナリストジャーナルを読みながら、全人材の活躍が推進されるような仕掛けに対する研究についても知りたいと思ってしまいました。

ということで、今月の証券アナリストジャーナルの感想ブログ、以上となります。最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!