やすべえです。証券アナリストジャーナルは毎年表紙の色が変わります。今年の表紙は少し緑がかった黄色でした。

ということで、今月、2021年1月の証券アナリストジャーナルを読み進めていきましょう!!

今月の特集は「アフターコロナの経済・金融市場」というテーマです。キャッチー過ぎる!特集です。毎月、証券アナリストジャーナルは、メルカリなどを通じて「証券アナリストだけどジャーナルを読まない人」から「証券アナリストじゃないけどジャーナルを読みたい人」に売られているようですが、今回の号は少し値段が上がるんじゃないかという感じがします。

 

動画版では1、2本目の論文についてお話しています。こちらのリンクから、または埋め込みの動画で見てください!

 

1本目の論文は「コロナショックと金融・財政政策の効果と課題(高田創氏)」です。

高田創さんは岡三証券のグローバル・リサーチ・センター理事長、エグゼクティブエコノミストでいらっしゃいます。私はファンでして、高田氏の発言は良くチェックしているのですが、最近ですと、日経ヴェリタス(2020.12.27)に、2021年「びっくり予想」という特集で、「FRBが長期金利の操作に乗り出し、ETF・REITの買い入れも導入」、「米中が接近し、英がEUへの復帰に動き出す」と無さそうで有るかも!?な予想をされていらっしゃいます。

 

この論文では、コロナショックでの金融・財政政策を分析していきます。

大きな主張として、「バブル崩壊では、BSの左側が毀損した=資産デフレとなった」が、「コロナショックでは、BSの右下が毀損した=売り上げ減で資本減少した」とあり、バランスシートの膨張縮小といった様々な金融取引を巻き込む問題にさせていない点を指摘しています。

コロナショックで影響を受けている「コロナ7業種(陸運、小売、宿泊、飲食、生活関連、娯楽、医療福祉)」の企業再生が難しいと指摘し、金融政策・財政政策を総動員しているおかげで7業種含め、何とか生き延びているが、大規模な政策は金融不均衡を拡大させるリスクがあると言っています。またコロナ終息によって、金融政策・財政政策が打ち止めになるとの観測でマーケットが調整されるのではないかという怖れにも言及しています。(この怖れは、私もまったく同じに思っていて、コロナの影響が無くなり、金融政策・財政政策が打ち止めになり、大きな負債が残り、中小企業を中心に倒産企業が増え、銀行経営に影響が、という流れになってしまうのは可能性は低いですがゼロではないと思っています。)

 

二つ目に興味深い点は、『国債は損失を肩代わりする「身代わり地蔵」』というものです。金融政策・財政政策の総動員というのは、国債を用いて企業の損失を肩代わりしているということになります。

そこで、国債が市場で「信認を保てる」かという議論に移っていくのでですが、経常収支と財政規律に注目すべきで、そうなると国内純貯蓄、財政収支、経常収支がどうなっているかを見ていくことになります。

結論としては、アメリカは経常収支赤字だが基軸通貨なので「信認を保てる」日本は経常収支黒字なので「信認を保てる」となり、途上国、欧州債務危機国は明言はしていませんが、「信認を保てる」とは書いていないようです。財政規律への姿勢に注目と言えそうです。

MMTに関しても言及があり、財政規律はスタンスとして大事であるといったニュアンスに感じました。つまり、「プライマリーバランスの黒字化に取り組んでまいります」と声高に言いながら、「未曽有の事態なので国債をたくさん発行します」と真逆のことをやる感じでも、当面は経常収支黒字なので「信認を保てる」という考え方かなぁと思います。

 

高田創氏のレポートを見たい方は、岡三証券のホームページへどうぞ。毎月5~10本くらいのレポートを無料で見ることが出来ます。

私のブラウザのお気に入りにもこのリンクが入っています!(笑)

 

2本目の論文は、「アフターコロナのESG投資(中空麻奈氏)」です。

中空さんもテレビでおなじみの方ですね!豊かな発想をお持ちで、比較的自由に発言されますので、好きな方は多いのではないでしょうか!?

 

本論文、ESG投資に関しておさらいしつつ、コロナというイベントによってそのESG投資がどうなったかということを書いていらっしゃいます。

まずは背景として、菅総理の2050年温室効果ガス排出ゼロ宣言、バイデン氏の大統領選出で、気候変動、SDGsへの世界の流れは間違いなく加速するとしています。ESG投資額の時系列の推移でも額が増えていることがデータとして示されます。

たしかにその通りです。その通りなのですが、私はやはり腑に落ちないところがあります。

 

例えば、A社は「普通社債」と「グリーンボンド」、両方を発行しています。「普通社債」についてはCO2の排出に繋がるビジネスを行う資金として使い、「グリーンボンド」についてはCO2の除去に繋がるビジネスを行う資金として使います。A社は専らCO2の排出に繋がるビジネスを行い、利益の源泉としています。ここで、A社の「グリーンボンド」を購入することは理にかなっているのでしょうか?

私は、債券が「普通」か「グリーン」かは「企業全体」として評価しなければいけないのではないかと思います。同じ信用リスクなのに「グリーンボンド」は割高というのも納得がいきませんし、発行体が用途を定めたり宣言したりして「グリーンボンド」になることで「普通社債」よりも有利な条件で発行するというのも茶番感が否めません。

 

まぁ、私が少し大きな声で言ったところで世の中は変わりません。債券の世界の人が考えたESG投資ってのは、そういうものなのです。

株式は、「普通株式」と「グリーン株式」とか分かれていないです。私の知る限り。でも、そのうち出ちゃったりして!(笑)

 

3本目の論文は、「コロナ禍における企業経営(宮川大介氏)」です。

本論文では、①「COVID-19によって直接的に生じた企業業績の変動を把握」します。「企業活動のトップラインに関する変動を把握」+「企業自身、政府、金融機関などがとった対応策を概観」→どうなったかを確認という流れです。そして、②「企業経営に対する含意を抽出」します。ちょっと表現が難しいかもしれませんが、著者の洞察という感じでしょうか。

 

①については、まずは売上高の推移を見ていきますが、2020年2月から下がって5月で一旦の底を打ち、データは8月までですが戻りつつも80%-90%までの回復に留まるといったデータとなります。厳しいデータです。

次に、論文の引用となりますが、「持続化給付金の支給によって小規模事業者の事業継続確率が20%程度上昇した一方で、雇用調整助成金には統計的に優位な水準での事業継続への貢献がみられなかった」とあり、また、金融機関による資金供給や企業自身の努力が事業継続に寄与したことも書いてあります。リース料の延滞発生のデータを用いて、政策の効果が徐々に出てきたことを検証しています。

 

②については、『企業内の取り組み』として、業種によって大きく差があること、大企業と中小企業でも大きく差があることが示され、これがアフターコロナで業績回復経路に影響してくるとしています。

この他に、『「最適な」取引関係』としてサプライチェーン見ておきましょうという話や、『データに基づく意思決定』として、しっかりやりましょうという話が出てきます。

 

4本目の論文は、「アフターコロナの働き方改革(風神佐知子氏)」です。

この論文はテレワークにフォーカスしているものです。企業でテレワークの環境づくりに従事している人にとって、参考となり、勉強になる内容となっています。

「テレワークの実施状況」では、内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響かにおける生活意識・行動の変化に関する調査」、日本労働組合総連合会「テレワークに関する調査」、慶応&NIRA「テレワークに関する就業者実態調査」といった調査があること、そして想像に難くないですが、実施状況が業種で偏っていたり、正規・非正規で差があったり、企業規模でも差があることが言及されます。

 

「テレワーク導入の目的」では、様々な導入目的がある中、「生産性向上」、「顧客満足度向上」、「創造性向上」といった目的だとプラスの影響が出やすいといったことが出てきます。ここは興味深くて、他にも目的は「移動時間短縮」、「非常時の事業継続」、「ワークライフバランス向上」、「オフィス費用削減」、「通勤弱者対応」、「優秀な人材確保」、「省エネ・CO2対策」とあるのですが、結果が一長一短になりがちな中、最初に挙げた3つだと、何だか上手いこといくようです。(笑)

 

「テレワークは生産性を向上させるのか?」では、コロナ前からテレワークをやっていた人対象で、「筆者の推計結果で最も生産性の上昇額が大きくなるのは、週の約半分、20時間30分のときである」と言及していて、半分職場、半分テレワークだと、良い結果が出るとなっています。

コロナ後にテレワークを入れた人は一様に生産性が下がっている(6-7割)一方で、コロナ前からテレワークをやっていた人の生産性は変化がない人が多いとなっていて、つまるところ、テレワークの導入の仕方で生産性が3-4割変わると示唆しています。ここは重要ですね。

 

最後に

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!いや、本当に見て頂けて嬉しいんです。ニッチなところにも需要が有るってのが分かりますし、フィードバックなんて頂くと、飛び上がって喜んでます。

ということで、本年もこのマニアックな試みにお付き合いくださいませ!!それでは!!