やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『取締役会の活性化と社外取締役の役割』という特集です。
特集のタイトルを見たところでの私の感想は、
「社外取締役が活躍している企業はほんの一握り、ほとんどの企業は形式的にルールに従っているだけ」
というところですが、読み進めていくうちに考え方は変わるでしょうか?
今月号もしっかりと読み進めてまいります!!
ちなみに、先月号をもって紙でのジャーナルが終了し、今月から電子版に完全移行となりました。
私としては、とても残念です。利便性が著しく下落したので「復活を!」と願うところですが、紙媒体をいったん廃止させて復活させると言うことはさすがに無いのかなと。
今月号から、電子版を印刷して読んでいます。
座談会は「社外取締役とは何か-企業価値創造プロセスへの関与- (引頭麻実氏、藤田純孝氏、堀井浩之氏、山本高稔氏、北川哲雄氏)」です。
本座談会は、日本企業における社外取締役の中での実力者の方や、社外取締役とつながりの深い識者の方で行われました。その文字起こしとなります。
座談会のトピックとして、「取締役会の仕組みや運営面での課題」、「社外取締役の役割とスキル」、「機関投資家の議決権行使の考え方」、「社外取締役への期待とファイアウォールの問題」、「アナリストのキャリアパス多様化の一例としての社外取締役」が挙げられています。23ページと長いですが、それぞれに出席者の忌憚の無い意見があり、学びになりました。
まず、これまでの日本のマーケットでの社外取締役関連の動向をおさらいしてみようと思います。
「社外取締役を導入することは良いことだ!推進しよう!」というグローバルスタンダードからの大きな流れが出来ました。それは今も続いています。
具体的には、「コーポレートガバナンスコードで推進しよう!コンプライ・オア・エクスプレイン(順守が説明か)だ!」と導入の義務化を行いました。
その結果として、
①マンパワーがあり、費用負担が出来、しっかりと推進する企業と、
②企業規模が小さいなどの理由から導入に負担が大きい企業とに、
二極化していく状況になりました。
2021年6月、コーポレートガバナンスコードは改訂され、推進の流れは加速していきます。
その理解には、JPXのアナウンスが分かりやすいです。このアナウンスでは、4分野に分けて書いています。
それぞれ、
1.取締役会の機能発揮
2.企業の中核人材における多様性の確保
3.サステナビリティを巡る課題への取組み
4.上記以外の主な課題
となっています。
これらをやっていくのはなかなか骨の折れる作業であり、①の企業は推進を続けていくこととなるでしょうが、②の企業は形式的に順守することも厳しくなってくるのではと思いました。
そんな中、今回の座談会では、主に①の企業に対して語りかけられていて、『「取締役会をサポートする部署」の役割強化などを重点的にやろう』など、具体的なアクションプランが提示されています。
一方で、②の企業に対しては、あまりソリューションが提示されていない中で『実効性を高めていこう』と言い放っているイメージを持ちました。
ここからは私の考えです。
②の企業のうち、今後①に移行出来ない企業は、今のガバナンス強化の流れに乗ることを諦めるべきではないでしょうか。
おそらく、一部の②の企業にとって、社外取締役による企業価値創造はコストに合わないでしょう。
コストに合わないどころか、「社内」で活躍できるリソースが不足しているのに、「社外」取締役を3分の1以上入れるなんて、リソースの使いみちとして間違っている!と思っているかもしれません。
限定的なリソースで効果を上げるという観点で言えば、外部知見を入れることの出来るアドバイザー起用や、モニタニング力のあるノーと言える監査陣起用といったことが可能だと思いますので、あえて小さな会社に大きなガバナンスコストを掛ける必要は無いと考えます。
市場運営者であるJPXに求められることは、玉石混交で上場会社を増やしてきた時代に別れを告げ、
①グローバルに認められる企業というレッテル、
②ローカルで光る企業というレッテル、
これらをしっかりと分けて貼ることでしょう。
プライム市場とスタンダード市場との間に明確なハードルを設け、ガバナンスなどを求めるレベルを大きく変えるのが良いでしょう。
具体的には、スタンダード市場のコーポレートガバナンスコードの対応(現状は5つの基本原則+31原則+47補充原則)を大幅に緩和、グロース市場並みの5つの基本原則のみにするのが良いと思います。
以上、座談会の文字起こしを読んで思ったことを書いてみました!
1本目の論文は「独立社外取締役の機能強化とそれを支える仕組み(高山与志子氏)」です。
この論文、座談会の話で言うところの「①の企業」向けに書かれたものですが、とても分かりやすく、すんなりと読み進めることが出来ました。
社外取締役にもっと活躍して欲しいと思った企業にとって、「教科書」とも言えるとても良い読みものと思います。
この「教科書」が教えてくれることは2点、
①取締役会の議論における社外取締役の機能発揮を支える仕組み
②社外取締役の責務に対する認識をさらに高めるための仕組み
です。
具体的な対応や施策が書いてあって、当社であれば誰誰が何何をするというアクションプランに落とし込める感じになっています。
加えて、海外の状況や国内の状況をデータとして出してくれているので、アクションの優先順位を決める参考にもなります。
大変分かりやすく、価値のある論文でした!
最後に、本論文より狭く深い議論になっているでしょうが、「取締役会評価のすべて」という著作がありましたのでご紹介です。
私が社外取締役、または社外取締役をサポートする役回りだったら読んでいるのではないかなぁ。。
2本目の論文は「ガバナンスの一翼を担う取締役会事務局の重要性と機能強化(富永誠一氏)」です。
この論文も、座談会で言うところの「①の企業」向けに書かれたものとなります。
特に、「取締役会事務局」の役割にフォーカスして書かれています。
前提として、社外取締役の活躍をサポートをする「取締役会事務局」の力が「取締役会」をより良いものにしていくと考えます。
その中で、具体的に「取締役会事務局」をどういったフォーメーションに、どういった作業体にすれば良い?というスタディが本論文に書いてあります。
具体的な行動を3ステップに分けていて、それぞれ
①庶務的ステージ(議事録作成、アドミニ、年間スケジュール作成)
②CGCからの受動的対応ステージ(取締役会実効性評価、議案資料のチェックとアドバイス、社外取締役への対応)
③CGCからの能動的対応ステージ(取締役会の議題予定表作成、事務局発の立案、取締役会の改善)
と分けています。
これは企業へのコンサルテーションなどで提示されるような内容だと思いますので、本論文で事前に知ることが出来るのはお得ではないでしょうか!?
また、本論文には「日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク」という団体の社会的意義(ちょっと宣伝?)が書かれています。
この団体は、研修の開催などの他に、「独立役員研究会」という社外取締役間での意見交換会、「取締役会事務局懇話会」という取締役会事務局担当者間の意見交換会をやっているそうです。
競合他社がどこまで行ってるかなどを知りたがる日本企業にとっては、入ってみたい会だなと思いました。
最後に、本論文の著者である富永さんの著作をご紹介しておきたいと思います。
「取締役会事務局の実務──コーポレート・ガバナンスの支援部門として」
こちらは、まさに本論文とシンクロするようなものと思います。
最後に
今月号の証券アナリストジャーナルは、『取締役会の活性化と社外取締役の役割』という特集でした。いかがだったでしょうか?
グローバルな流れとして、コーポレートガバナンスが高度化しています。
逆説的ですが、グローバル企業としてのステータスを捨てる企業戦略があっても良いのではないかと考えました。
ローカルでも輝く星はたくさんありますし、グローバルで輝かない星もあるでしょう。
企業それぞれの持ち味が生かされるように日本の資本市場が整備されていくように願っています。
今月号も最後までご覧いただきまして、ありがとうございました!
(動画版はこちらのサイトにアップしますが、もう少々お待ちいただけたらと思います。)
<追記・・・動画版について>
今月号の特集を受けて、
「コーポレートガバナンスコード全原則の対応 5W1Hで示すアクションプラン」
という動画を作ろうと考えていました。
おおまかな流れは有るものの、かなり内容が多いので、動画化は難しいかもしれません。
何か聞きたいなどありましたら、問い合わせのページからお願いできましたらと思っております!
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