紙では最後の証券アナリストジャーナルやすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『国際金融センターとしての東京に向けて』という特集です。ユニークな特集だなと思いました。

2本の論文と座談会の文字起こしから構成されています。

今月号もしっかりと読み進めていきたいと思います!!

 

1本目の論文は「国際金融都市としての東京の役割 (中曽宏氏、横田雅之氏、濱川明香氏)」です。

「東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)」というものを皆さん、知っていらっしゃいますでしょうか?
本論文は、そのFinCity.Tokyoに在籍するお三方が書かれています。内容としては、FinCity.Tokyoの紹介や、FinCity.Tokyoのミッションである、「東京が世界に冠たる国際金融都市になることを目指し、官民連携で取り組む各種プロモーション活動を推進する」ことについて書かれています。

最初にこの機構の発足の経緯が書かれていました。
2016年11月に「国際金融都市・東京のあり方懇談会」を設置し、2017年11月に「国際金融都市・東京」構想を公表し、2019年4月に「FinCity.Tokyo」が発足したそうです。

 

いろいろな議論が進む中で、2021年11月、「国際金融都市・東京」構想2.0というものが策定、発表されています。
リンクを見て頂けたら分かりますが、「サステナブル・リカバリーを実現し、世界をリードする国際金融都市へ」と大きく書き、
<金融情勢の変化>がある今こそ行うべきだ、そして、<東京の強み>を活かすべきだ、という背景を書いています。
そして、3つの施策、「社会課題の解決に貢献する分厚い金融市場の構築 Tokyo Green Finance Initiative(TGFI)の推進」、「フィンテックの活用等による金融のデジタライゼーション」、「資産運用業者をはじめとする多様な金融関連プレーヤーの集積」が紹介されています。

 

総花的でお見事!!という感じなのですが、この多数の政策に少しずつ予算を付けて、1ミリずつ前進させていくのでしょうか?
それとも、この多数の政策の中から、費用対効果の高いいくつかに集中的に予算を付けて、1メートルの前進を目指すのでしょうか?
前者ですと、これまでやってきた失敗の焼き直しになるのではと思いました。やるなら後者でしょう。

僕は、一点集中でやるなら、「東京国際サステナビリティ研究所」を作ったら良いと思っています。
日米欧の知識をお金で集めて、「サステナビリティの定義」「サステナブルなヒト・モノ・カネの在り方」「サステナビリティ・ファイナンスのスタンダード作り」に全集中すべきなんじゃないかと思います。
安直な論理展開で申し訳ないですが、今、世界をリードしているアメリカの企業は研究開発をしっかりやって成果を上げていますので、土台の研究に集中すべきではないかと考えました。
たとえそれが、「国際金融都市・東京」に繋がらなかったとしても、これからの世界のために十分に価値があるとも考えます。

中曽さん、お目にかかったことは無いですけれども、「東京国際サステナビリティ研究所」を3000億円くらいで立ち上げるというアイディアは、如何でしょうか!?

 

2本目の論文は「国際金融センターの条件と東京の戦略案(赤羽裕氏)」です。

この論文では、「国際金融センターとは?」、「東京の挑戦の歴史」、「アジアの都市間競争」、「国際金融センター再挑戦の戦略」といったことが書かれています。

基軸通貨を持つ国になると、その国のある都市が国際金融センターになるということや、
国の経済力が高まると、その国のある都市が国際金融センターっぽくなるということが分かります。

上記の議論だけだと、国際金融センターは世界に1個しか存在できないとなってしまいますが、基軸通貨=圧倒的な経済力以外のファクターでも国際金融センターの地位は勝ち取れると後述しています。

 

それが、国際金融センターの4つの分類です。
「国際金融センター再挑戦の戦略」の章に書かれていますが、それぞれ、
「実経済バック型」、「情報・知識集約型」、「金融仲介型」、「ゲートウェイ型」となるとのことです。

先ほどの「国際金融都市・東京」構想2.0にも書いてありますが、東京は「実経済バック型」を志向しています。
再び安直な論理展開ですが、今の日本・東京が、GDP世界3位、個人金融資産1900兆円、世界屈指の東京証券取引所、都市総合力世界3位と謳っても、そのどれにおいても世界のトップには今後なり得なくて、逆に言えば、他の都市に追い抜かされていくだけなので、実経済バック型、厳しいのではないでしょうか?
僕は「情報・知識集約型」を目指すべきだと思います。

 

著者は「国際金融センターとしての東京のSWOT分析」をしてくださっていて、
なんだか「まだこの段階のことをやっているのか?」と思いながらも、大事だなとも思うのですが、
強みに「2000兆円に迫る個人金融資産」、「国際主要通貨円の存在」とあります。

繰り返しになりますが、ここに書いてあることは、国際金融センターっぽくなる要素としては強みだと思いますが、国際金融センターになる要素としては強みとなり得ないでしょう!

 

本論文を読み終えた後も、やはり「東京国際サステナビリティ研究所」を3000億円くらいで立ち上げるというアイディアが良いんじゃないかと思った次第です・・・。

 

座談会は「国際金融センターとしての東京に向けての課題(ジョン・アルカイヤ氏、阪口和子氏、菅野暁氏、加藤康之氏)」です。

「東京は国際金融センターになれるか」、「東京は海外資産運用会社の誘致を含めて資産運用会社の集積度を高められるか」、「東京はサステナブルファイナンス・マーケットとして世界をリードできるか」、「東京は金融テクノロジー活用で世界をリードできるか」、「東京が国際金融センターを目指すためにすべきことは何か」という題目で、議論が行われています。

加藤康之氏のモデレーター役の上手さからか、良い議論が展開されています。

 

日系の資産運用会社が、運用の一部を外部委託するという形態について語られているところは、日系の資産運用会社の運用能力の低さをカバーするための対症療法が長い間行われ続けているという黒歴史がオープンになっています。私は金融村に20年近くおりましたので、忸怩たる思いで読みました。銀行や証券の傘の下に資産運用会社がある日本では、その黒歴史を続けることこそが収益を生み出し、極大化に近づける方法であっただけに、対症療法しか行ってこなかったことは、本当に残念でなりません。

 

「東京はサステナブルファイナンス・マーケットとして世界をリードできるか」のところは、希望があります。リスク・リターンの2軸で考えてしまいがちなところはありますが、
阪口和子氏の「東京の国際金融都市化に関する議論をフォローしていると、ニューヨークやロンドンのコピーを作る方向に行きかねない気がするが、既存の国際金融都市のコピーを作る必要は全くない。東京やアジアの独自性を出すことが、結局、人もお金も呼ぶことになる。」、「欧米のまねをしたら、逆に欧米の方にお金がいってしまう。われわれのアイデンティティーを持った方がよい。」というご発言は大変力強く、まさにそうだなと頷きながら読んでおりました。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『国際金融センターとしての東京に向けて』という特集でした。いかがだったでしょうか?

自分の意見が書いてあることとちょっと違うなと思ったり、逆に同じだなと思ったり、ジャーナルを読むことで自分の思考の整理や新発想に繋がっていることが実感できた特集でした。

さておき、紙でのジャーナルの最終号となりました。読み終えて、「さみしさ」がこみ上げてきました。。。

何はともあれですが、今月号も最後までご覧いただきまして、ありがとうございました!

(動画版はこちらのサイトにアップしますが、もう少々お待ちいただけたらと思います。)