やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『ニッポンの社長』という特集です。
キングオブコントに出ている吉本興業の芸人のコンビ名と一緒ですが、面白いテーマのタイトルだと思いました!

「ニッポンの社長」と聞いてぱっと思いつくイメージとしては、「一部のカリスマ経営者」とか、「大企業での出世競争に勝ち抜いた猛者」とか、「アメリカのようにプロ経営者はほぼいない」など、いろいろありますが、どのような「ニッポンの社長」論が展開されるでしょうか?
今月の4本の論文、楽しみです!

 

1本目の論文は『プロフェッショナル経営者とトップマネジメントチーム(久保克行/内ヶ﨑茂/瀬古進/霧生拓也氏)』です。

2章「取締役会とトップマネジメントチームの変化」を興味深く読みました。
『伝統的な日本の大企業の取締役会は人数が多いこと、社外取締役がほとんどいないこと、大多数が日本人の高齢男性であり、性別・国籍・年齢などのダイバーシティに乏しいことが特徴であった』と、見事にまとめていて、その後に、『取締役会改革では、取締役会の人数の減少、社外取締役の導入、外国人取締役や女性取締役の導入などが行われてきた』と記してあります。

取締役会の変化の例として、1996年時点と2020年時点での武田薬品工業のトップマネジメントチーム改革が紹介されます。24年の年月を経て、ビックリするほどの変化が起きていることが分かります。
1996年では、経営の執行と監督の分離は無く、全員男性、最高経営責任者が明示されていないといった特徴が見えます。
一方、2020年では、経営の執行と監督を明確に分離し、男性19人女性5人という構成、CEOやCFOといった制度が導入されているといった特徴が見えます。

また、後半に、CxOを設置している企業のパフォーマンスが良いことが示されています。
「より良い企業にするために、取締役会がどうあるべきなのか」をしっかり考えてきた企業とそうでない企業の差がついていることが分かります。
経営者必読の論文と思いました!

 

2本目の論文は『日本の家族企業の強み―多様な人材(CEO)の活用―(沈政郁氏)』です。

日本の家族企業に焦点を当てた論文です。
ユニークであると感じますが、先行研究も多くあるようで、『所有と経営だけでなく、家族という第三の事象が関わる・・・スリーサークルモデル(Three-Circle Model)』を書いたRenato Tagiuri, John Davis[1982]”Bivalent Attributes of the Family Firm”や、『後継者問題へのしなやかな対応能力を示している・・・日本の婿養子(娘婿)の慣習』を書いたVikas Mehrotra, Randall Morck, Jungwook Shim, Yupana Wiwattanakantang[2013]”Adoptive expectations: Rising sons in Japanese family firms”などが紹介されています。

本論文では、「番頭型専門経営者」という「次の後継者の準備が整うまでのつなぎ役」について深く議論されています。

 

3本目の論文は『社長の性格と企業のパフォーマンス(馬奈木俊介/野澤亘/謝俊氏)』です。

帝国データバンクが調査・収集した約97万社の信用調査データベースには、各社の基礎的な財務データに加えて、各社社長の25項目の性格・資質のデータが含まれているそうです。
このデータを用いて、「社長の性格」と「企業のパフォーマンス」の関係性を分析していきます。ユニークです!

まず、各社社長の25項目の性格・資質のデータを9項目に集約しています。それぞれ、①誠実性、②個性的、③外向性、④実行力、⑤神経症傾向、⑥開放性、⑦決断力、⑧協調性、⑨倹約、となります。
次に、集約された9項目がどのように業績に影響をもたらすか、①ROA、②財務レバレッジ、③経営開発強度、について見ていきます。

一番大きな知見として、9項目のうちの「⑨倹約」の性格・資質が「①ROA」に対し無視できない大きさで影響していることが見られました。
他にも、「⑧協調性」の性格・資質が「②財務レバレッジ」に対して正に有意な影響があるなど、分析されています。

 

4本目の論文は『社長の経歴と企業パフォーマンス(山田徹氏)』です。

2000年以降の日本の大型・中型の上場企業を対象に、社長を経歴によって5つに分類するという作業を行い、「社長の経歴」と「企業パフォーマンス」の関係性を分析していきます。
5つの分類は、①創業者、②同族、③生え抜き、④天下り、⑤外部、となっています。この分類が大変興味深いです!

結論としては、『創業者社長は企業価値を高める力がある』『天下り社長の企業は投資対象として魅力が薄い傾向がある』といったことが見えてきます。
経営サイドにとって、誰を社長にするかは如何ともしがたいものかもしれませんが、投資家にとってはどの分類の社長に投資するかを選べるので、とても有益な情報でしょう。
「創業者社長ポートフォリオを作る」とか、「天下り社長の企業はユニバースの対象外にする」といった方針を策定することが可能です。

他にも、社長の最終学歴と5つの分類がどう関係しているかが分析されていて、慶応大学と同族の関係性が高くなっているという結果が出ていて、大変興味深く読みました。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『ニッポンの社長』という特集でした。

さまざまな切り口で分析されていましたが、「社長によって企業が大きく変わる」ことは紛れもない事実であることが分かりました。
4本目の論文にある『創業者社長は企業価値を高める力がある』というのは、「創業者以外の株主が企業価値を高められる社長を選べていない」ということに繋がる大事な知見です。
株主の役割、責任として、しっかりと経営者を選ばねばいけません!そして、しっかりと選べるような株主と経営者の関係性と仕組みが大事になってきます!

今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!