やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『インフレと資産運用その2』という特集です。
今月は「その2」ですが「その1」と言える、「インフレと資産運用」という特集が組まれたのは、2023年5月のことでした。
「その1」の特集では、『これまでの資産運用において、インフレを軽視していた投資家は比較的多かった』、『現実問題として、インフレを軽視していて、大きな問題は無かった』、『これからの資産運用においては、インフレを考慮するべきとする投資家が大半になってくるかも』といった感想を書いています。
それから1年と3か月が経ちました。実際はどうなったでしょう?マーケットは、ようやく沈静化を迎えたと考えている気がしますが、実際の数字を比較してみると、金価格は2023年5月末は1964ドルで、2024年7月末は2426ドルと、上昇しています。米国10年金利は2023年5月末は3.64%で、2024年7月末は4.03%と、こちらも上昇しています。
ということで、数字だけを見ると、インフレが進んでいるように見えます。マーケットがインフレ環境に慣れてきただけでしょうか?さておき・・・。
「その1」に戻りますと、読後のまとめとして、『インフレ時代の資産運用は総じて結果は宜しくない』、『運用の難易度が高いことを再確認し、その前提でチャレンジしていくべき』と書いています。これは事実としてそうだし、投資家が忘れがちだけど頭に入れておくべきことかと思います。
さて、今月の論文はどのような内容になっているでしょうか?
楽しみながら読み進めたいと思います!
1本目の論文は『インフレ期における日本株式市場の投資戦略(広木隆氏)』です。
『戦後の日本経済は大局的に見れば高インフレ期(1952~1986年)と低インフレ期(1987年~2021年)の2期間・1サイクルしかない』と引用していますが、本論文では、あえて、1999年~2013年をデフレ期(「真正デフレ期間」とも表現されています)、2014年~2023年をインフレ期(=デフレ脱却期)として、分析を進めていきます。
分析の結果としては、
①インフレ期にはインフレファクター(配当込みの月次リターンと、コアCPIの対前月変化率の共分散を、コアCPIの対前月変化率の分散で除したもの)にベットすればアルファが得られる
②ボラティリティと配当利回りは、分析期間を通じて安定的なアルファを生み出しており、デフレ期・インフレ期の環境に影響されない
となっています。
2本目の論文は『脱デフレ環境下での外貨投資に関する一考察(高島修氏)』です。
「ヒステリシス(加える力を最初の状態のときと同じに戻しても状態が完全には戻らないこと)」という言葉を使って、日本が円高構造から円安構造に転換してきたことに関する筆者の考えが述べられています。
当然ながら、国も企業も機関投資家も個人投資家も生き物であるわけで、為替レートが変われば、行動も変わり、それが不可逆的になることは自然な現象でしょう。
円高時に企業によって積極的に行われた海外進出と国内賃金のコストカット、円安時に日本国によって積み上げてきた外貨準備を利食うように行った介入、他にも様々なエンティティでの行動が書かれています。
俯瞰的に見ていて、結論をぱっと見出すことは難しいものの、解像度が上がる感覚を持ちました。
そんな議論が進んでいく中、最終章「おわりに」の最後には、「本稿の冒頭で述べたとおりだが、インフレかデフレか、円安か円高か、海外投資が増えるかどうかは、金融経済における極めて複雑な因果関係を、過去の実績もひも解きながら、多面的、包括的に考えていくべきことだ。単にインフレで海外投資が増えるとか、円安が加速するといった議論からは、一線を画したい」とまとめています。本論文で高島さんは、これが言いたかったのではないでしょうか?私も同感です!
3本目の論文は『インフレと不動産投資(高橋雅士/吉田二郎氏)』です。
本論文の結論は「東証REIT指数および個別REITのいずれも予想外のインフレに対する短期的なヘッジ特性を一定程度持つことが示唆された。特に、保有期間を長くすると、インフレヘッジ能力は大幅に向上する。」というものだったのですが、私が記憶すべきだなと思った点は以下の言及になります。
PREA[2023]によると、一般的に不動産投資の目的は大きく五つに集約される。①シャープ比、②毎期の収入、③分散効果、④インフレヘッジ、⑤市場ポートフォリオの構成要素、である。
(PREA[2023]は、”Why Real Estate? (updated to Q2 2023)”を参照しています)
インフレに対峙すべきだから不動産投資やREIT投資をするというものではなくて、不動産投資やREIT投資をしている中で上述5つの目的・効果があるという順序で考えるべきでしょう。
株式、債券に次ぐ、3つ目の金融商品として大事な不動産ですが、本論文でその大切さを再確認した次第です。
4本目の論文は『資源インフレリスクマネジメントとしてのコモディティの活用(新村直弘/大崎将行氏)』です。
論文のタイトル通りのことが議論されています。私がハイライトしたのは、第5章「インフレに連動するコモディティ関連金融商品の有効性評価」のところです。
原油ETF、金ETF、TOPIX石油・石炭製品指数はいずれも消費者物価指数に対して比較的高い説明力が確認された
上記の3商品と銅ETFを含めた、4つのコモディティ関連の金融商品において分析が行われた結果となります。
銅ETFの説明力はさほど高くなかったようですが、脱炭素やサプライチェーン寸断の影響によって価格が高騰したが、それを最終価格に転嫁するのが困難だったためと筆者は捉えています。
「全資産の5~10%は金で所有すべき」とか言われますが、銅ETFも含めた4商品を少しの割合でも保有することは、インフレリスクマネジメントに有効でしょう。
高騰している中、一歩を踏み出すのが難しいところですが・・・。
最後に
今月号の証券アナリストジャーナルは、『インフレと資産運用その2』という特集でした。
この夏休み、抱えていることが少し多かったので、今月号は軽めに読みまして、軽めに書きました。
備忘録にはなっているのですが、読者の皆様に、論文の概要と読後の感想をしっかり伝えられたかというと、ちょっと疑問符です。すみません。
なにはともあれですが、今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!
- 投稿タグ
- 証券アナリストジャーナル