やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『人口減少と株式市場』という特集です。

特集のテーマとしては、やや抽象的な感じになりますでしょうか。
その分、バラエティに富んだ5本の論文となっています。

楽しみながら読み進めたいと思います!

 

1本目の論文は『人口減少と経済成長―産業構造と労働移動からみた日本経済の課題―(安藤浩一/吉川洋氏)』です。

「はじめに」の章に、『経済成長については、人口の影響以上に、1人当たりGDPが大きな要因である』、『一人当たりのGDPの成長は、定義上、労働生産性の上昇を意味する』と書いてあります。
本論文は、労働生産性の上昇について考えていきます。

まず知っておくべきことですが、日本の労働生産性はずっと低いということです。OECD Statisticsを基にした1970年からの推移が出ていますが、対アメリカ比で40程度であった数値はバブル絶頂期には70を超えるものの、現在は60割れといった状況です。

この要因として、『日本では、欧米と比べて労働者が企業/産業間の枠を超えて移動する率が低い』というのがあります。これは、誰しもが思いつくところではあるかもしれませんが、これ以外に、『人が生産性が高く、したがって賃金水準の高い職場に移る』という経済学的にごく自然な考えが実際にはそうなっていないということも披露されています。

医療・介護セクターにおいては、『公的保険が存在するために、「公定価格」に基づく市場である』のに、『保険の報酬体系が時代の変化に応じて機動的に見直され』ていないとの言及があり、『政府の「失敗」』としています。介護においては資本装備率(ロボットなどの装備的なもの)の低さも指摘されています。

イノベーションを先に進めたほうが良いのか?それとも、労働市場改革を先に進めたほうが良いのか?両方を同時に進めるべきなのか?と考えを深めるのに良い論文でした!

 

2本目の論文は『高齢化と中小企業パフォーマンス(胥鵬氏)』です。

本論文では、高齢化によって企業/産業がどう変わっていくのかをロジカルに示しています。

「少子高齢化と企業業績」の章では、『日本の賃金センサス統計によると、45歳未満の部長職の割合が1976年の24.5%から1994年の7.6%に大きく低下した』とあります。高齢化によって、管理職に昇進する若者中堅が減ってしまい、起業にとってマイナスの影響が出ているということになります・・・。高齢化が進んでいる世の中で、45歳以上の部長職から起業をすることも可能とは思いますがどうなのでしょうか?

「高齢化と企業業績」の章では、①高齢化が進む→②企業ダイナミクスが低下する→③小規模企業の収益が低下すると議論されています。これは、新規企業が参入すると、既存企業で儲かっていないところが倒産・廃業するということから理解できるところですが、高齢化が進んだら必然的に企業ダイナミクスが低下するというところは変えられないものでしょうか?

「結び」には、『生産性の最も低い小規模企業の退出を促すと同時に、参入、すなわち小規模企業の新陳代謝を高めることが重要である』と言い切っています。小規模企業は一人企業も多く、「小規模企業≒個人」とも言えるわけですが、いやはや、生産性を高めることが善であるのかを考えさせられる恐ろしい文章だと思いました。

 

3本目の論文は『人口減少時代の人的資源管理―多様な個に配慮し組織力を高めるマネジメント―(西村孝史氏)』です。

本論文では、人口減少時代であってもなくても非常に重要である、人的資源管理の方策が書かれています。「おわりに」の章が非常に分かりやすいまとめとなっているので、ありがたいです。

人事部門は、①従来よりも少ない人数で個々の生産性上げる・AIによる省力化、②雇用形態や従業員属性のメッシュを細かくして多様な人材を確保する、③この力を組織力に変換する、という3つが大事と書かれています。
一方で、管理職は、①人事施策を理解し、人事施策を部下に展開する、②日々の管理業務をしっかりと行う、③組織を束ねる力を持つ、という3つをすべきと書かれています。

たしかに!という感じです。

 

4本目の論文は『人口構造の変化が株式の超過リターンに与える影響(熊本方雄氏)』です。

「ライフサイクル投資仮説」という、20~30歳代における住宅や耐久消費財需要が一段落した40歳代以降では、金融資産の保有を増加させるため、高齢化が進展すると株価を上昇させ、リスクプレミアムを低下させるのではないかという仮説があります。一方、「メルトダウン仮説」という高齢者がその保有資産を株式から安全資産へシフトさせる結果、高齢化の進展により株価が急落するという仮説があります。この2つの仮説をデータや事実から考えてみると、前者の「ライフサイクル投資仮説」が妥当ですね、という論文でした。

 

5本目の論文は『人口減少と公的年金財政(中嶋邦夫氏)』です。

5年ごとに厚生労働省から公表される「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」というのがありますが、2024年7月に公表された「令和6(2024)年の財政検証」に呼応する形で書かれた論文です。さまざまな変動要因を高位・中位・低位の3シナリオに分けて、24個ほどグラフが書かれています。
まとめ的なことは書いてあるのですが、今後の方策として、「〇〇すべき、◇◇すべきでない、△△という政策が費用対効果を考えると効果的」などとは書けるものなのでしょうか?最終的にはお金をどう分配するかという話なので、書きにくいのかもしれませんが・・・。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『人口減少と株式市場』という特集でした。

「経済成長」、「中小企業のパフォーマンス」、「人的資源管理」、「マーケットに与える影響」、「公的年金財政」とさまざまな論点がありました。
全ての論点において、高齢化はあまり良く捉えられていないのですが、なんだかやるせないです。社会科で「人口ボーナス(労働年齢の人口が多く、経済成長が促進される状態)」と「人口オーナス(高齢者や若年層の割合が多く、労働年齢の人口が少ない状態で、経済に負担がかかること)」について学ぶと思いますが、オーナス(onus)って、重荷、責任、義務という意味ですし、なんだか、やっぱりやるせないです。

なにはともあれですが、今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!