やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『金融リテラシーと金融行動』という特集です。

解題の冒頭に、『金融リテラシーは、OECDの定義に基づけば、「金融に関する健全な意思決定を行い、究極的には個人のファイナンシャル・ウェルビーイングを達成するために必要な、金融に関する意識、知識、技術、態度、および行動の総体」である』と書いてあります。
私の金融リテラシーの解釈(定義)は『金融に関する知識や知恵を正しく理解し、その知識や知恵を活用できる力のこと』としています。
どちらの定義がお好きですか?笑

さて、内容についてですが、4本目の論文に「アドバイスは無料なら受けたいが、有料だと受けたくない」という、アドバイザーならば誰もが悩み苦しむ問題が真正面から分析されています。この他も興味深い題名が並びます。今月号も楽しみながら読み進めてまいります!

1本目の論文は『金融リテラシーと金融行動をめぐる内外の状況(神山哲也氏)』です。

第1章として「日本における金融リテラシー向上の取り組み」が紹介されています。
2013年4月「金融経済教育研究会報告書」が取りまとめられて、最低限身に付けるべき金融リテラシーの4分野・15項目といったものがメジャーな存在になりました。
2014年6月には年齢階層別にマッピングした「金融リテラシー・マップ」が作成されました。こちらも関係者は間違いなく頻繁に見ているものだと思います。
(リンクはJ-FLECサイトにある2023年6月改訂版のものです)
上記の取り組みにもかかわらず、2022年7月公表の「金融リテラシー調査」によれば、金融教育を受けた人の割合は7.1%にとどまっているという状況です。
2022年11月に、新しい資本主義実現会議でまとめられた「資産所得倍増プラン」では7つの柱のうちの第5の柱として「安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育」が挙げられています。
そして、2024年4月にはJ-FLEC(金融経済教育推進機構)が設立されました。

第3章、第4章では、アメリカとイギリスにおける金融経済教育についてが書かれています。
米国については、J-FLECの名称の由来にもなった金融リテラシー教育委員会(Financial Literacy and Education Commission:FLEC)が展開するMyMoney.govについてや、消費者金融保護局(Consumer Financial Protection Bureau:CFPB)についてが書かれています。
英国については、マネー・アンド・ペンションズ・サービス(Money and Pensions Service:MaPS)が5つの機能(年金ガイダンス機能、債務アドバイス機能、マネーガイダンス機能、消費差保護機能、国家戦略機能)を果たすものとされていることや、ファイナンシャル・ウェルビーイングのための英国国家戦略2020-2030といったものが紹介されています。

 

2本目の論文は『NISA未利用の要因分析―金融リテラシーと心理バイアスの比較―(上山仁恵氏)』です。

日本証券業協会「証券投資に関する全国調査」のデータを用いて分析を行っています。
『NISAの認知度が高い層でも低い層でも、口座開設の希望や興味の有無には、金融リテラシーよりも、証券投資に対するイメージの影響が大きかった』という分析結果を導き出しています。
『証券投資に対するイメージの向上には、金融リテラシーが低いうちから教育を行うことである』とも書いてあります。

このあたり、OECDの金融リテラシーの定義でいうところの「金融に関する健全な意思決定を行い」というのが出来れば、証券投資に対するイメージが高いとか低いとかは重要視しなくても良い気もしますが、総じて、早い時期からの金融リテラシー教育はあって良いという方向性なのかなと思いました。

 

3本目の論文は『確定拠出年金と金融教育、金融リテラシー(大野裕之氏)』です。

こちらも、日本証券業協会「証券投資に関する全国調査」のデータを用いて分析を行っています。
『有価証券を保有していない非投資家にあっては、金融教育経験は企業型DCへの加入を促進する』、『投資家にあっては、金融教育経験は、企業型DC加入、iDeCo加入のいずれをも促進する』という分析結果を見出しています。

やはりと言えばやはりですが、金融教育とそれによる金融リテラシーの向上が重要であるという方向性となっていました。

 

4本目の論文は『金融リテラシーとしての外部知見の活用の課題(家森信善/上山仁恵/荒木千秋氏)』です。

本ブログ記事の冒頭にも書きましたが、「アドバイスは無料なら受けたいが、有料だと受けたくない」という、アドバイザーならば誰もが悩み苦しむ問題についてが書かれています。
2023年8月に行った6000人への調査によるデータの集計結果がその問題を明らかにしています。

専門家からの助言の希望について、11項目(生活設計全般、資産運用全般、家計管理、株式投資、教育資金計画、退職後の計画、保険加入や見直し、住宅ローンの借入や見直し、納税や税金対策、相続対策、借金の負担軽減や整理)について、「有料(1時間5000円以上)でも受けたい」、「有料(1時間5000円未満)で受けたい」を合わせた比率は、それぞれ、2.2%、3.6%、1.8%、3.9%、1.3%、2.2%、2.0%、1.7%、3.5%、3.5%、1.6%、となっていました。

助言者の実力不足という問題もあるようですが、助言の重要性について認識していないという問題がありそうです。
そういった意味で、J-FLEC(金融経済教育推進機構)が行う、個別相談「J-FLECはじめてのマネープラン」というのはかなり難しいチャレンジなのだなと感じました。
私も微力ながら貢献していきたいと考えています。

 

5本目の論文は『フィンテックの認知・利用経験・利用意向と金融リテラシー(阿萬弘行氏)』です。

こちらの論文では、2021年2月に1901人の有効回答者数を得たアンケートより、フィンテックの認知・経験・意向についての調査結果がありました。大変興味深いです。

9分類(スマホ決済、会計・家計簿アプリ、ロボアド投資、スマホ投資、暗号資産、AIスコア借入、クラウドファンディング、銀行提供アプリ、個人間送金サービス)において、それぞれ認知度、利用経験、利用意向が載っています。スマホ決済は2021年2月現在でも57.2%の人が利用経験があったり、暗号資産については36.6%の人が認知しているが、4.2%の人しか利用経験が無いなどとありました。

データはこちら(関西学院大学リポジトリ)から見ることが出来るようです!ありがたい!

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『金融リテラシーと金融行動』という特集でした。

「お金のいらない国」といったものを思考訓練的に想像することはありますが、現実には「お金のいる国(世界)」で生きているわけですので、金融リテラシーというのは非常に大切なものです。
今回の5本の論文を通じて、金融リテラシーの大切さを様々な角度から学びました。
日本の金融リテラシー向上に向けた問題としては、金融リテラシーを習得する機会が行き渡っていないという問題もありますが、金融リテラシーに対する食わず嫌いによる問題が大きそうです。
私がやっている「一隅を照らす」といった活動では時間切れになってしまうという危機感も感じました。

ただ、J-FLECの創立は、日本における金融リテラシー向上の大きな一手です。
私は、J-FLECの活動を尊重し、出来る限りのことをしたいと考えています。金融教育にたずさわる皆さまも同じような思いを持っていらっしゃるのではないでしょうか?

今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!