証券アナリストジャーナル2020年1月号やすべえです。今年も、「証券アナリストジャーナルを読んで」シリーズをよろしくお願いいたします!

ちなみに、2019年12月号で予想しておりました、「今年の証券アナリストジャーナルの色」ですが、緑色との予想、当たりました!

予想はこのように書いていました。

証券アナリストジャーナルは毎年カバーの色が変わります。2017年はオレンジ、2018年は青、2019年は赤むらさきでした。2020年は何色になりますでしょうか?やすべえは緑色系統と予想しておりますが・・・。

 

さて、今月の特集は「個人投資家の資産形成行動とその背景」です。私が今研究している「株主優待と個人投資家の関係」というのも、この特集の範囲に含まれるべきものと思いますので、早く書きあげていたら査読を受けるくらいは出来たかもしれませんが・・・まだ執筆中なので残念ながら載っていません。

 

1本目は、論文「老後生活の設計と公的年金の役割(高山憲之氏)」です。

「老後2000万円問題」で老後生活の設計と公的年金の役割について、メディアに叩かれるなど、議論が起こりましたが、この論文では、「平均」でなく「分布」などを示して、丁寧に説明が行われます。

まずは、「厚生年金保険における老齢年金給付月額の分布」、「国民年金における老齢基礎年金月額の分布」のグラフがあり、男性と女性に分けて、どのくらいの月額を貰っている人がどのくらいの割合いるのかという事を伝えます。この分布は0万円~30万円以上、0万円~7万円以上、といったように、かなり幅広い分布になっているので、多く貰える人とそうでない人の差が大きいことが分かります

そして、「世帯ベースでみた公的年金受給年額の分布」が出てきますが、こちら、世帯ベースでは2峰型になっており、多く貰える人とそうでない人が二極化していることが分かります。具体的には受給年額60万円~80万円の国民年金グループ、140万円~160万円の厚生年金保険グループが2つの山となっています。また、200万円以上の分布もそれなりの割合であることも読み取れます。

まさに、「平均」で議論してはいけない問題であることが分かりました!

 

そして、次に出てくるグラフは「年齢層別にみた世帯人員1人当たり平均所得年額:2017年」というもので、30~39歳、40~49歳といった子育て世帯の所得と、60~69歳、70~79歳といったシニア世帯の所得が同じくらいになっていることが読み取れます。子育て世帯と所得が同じくらいのシニア世帯は、支出額が少なくて済むわけで、このデータを見た上で、「人生100年時代、長くなる老後ステージのために、働くステージで貯蓄や投資を増やして、将来に備えましょう」とはとても言えないなと思います

そしてさらに言うと、保有している貯蓄額を比較してみると、シニア世帯が持っている貯蓄額はが子育て層と比べて圧倒的に大きいのです。

子育て世帯が苦しんでいるというこの構図をどう打開していけば良いのか、しっかりと考えないといけません。もちろん、贈与の税制が緩和されるなどの環境変化のおかげで親族ベースで打開出来ることはありますが、公的な枠組みでもっと支援できないといけないでしょう。

 

 

2本目は、論文「家計の資産形成行動に居住用不動産が及ぼす影響(祝迫得夫氏、小野有人氏)」です。

少しマニアックなお題に見えますでしょうか。

 

このサイトでもしばしば言及していますが、「日本の家計の保有する金融資産に占めるリスク資産の比率は、株式に加えて債券や投資信託を全てリスク資産だとみなしても15%にすぎない」、「米国では、株式だけで34%、債券・投信も合わせると53%がリスク資産」、「ユーロエリアでもそれぞれ19%と30%」と紹介され、日本の家計におけるリスク資産の比率が少ないことが分かります。

その理由として、居住用不動産というのは、土地だったり建物だったりという「リスク資産」なわけですが、日本では、その土地や建物という「リスク資産」の割合が大きいので、家計の資産形成行動に影響がある(金融資産の中でリスク資産を持たない)のではないか?という話になります。

 

結論としては、家計の資産形成行動に居住用不動産が影響しているという「仮説は日本では支持されない」となっています。高度経済成長期にリスク資産を持つ必要性が薄かったことや、行動経済学的な観点で周りにリスク資産を持っている人が少ないから自分も持たないという行動になっている可能性などが言及されています。

 

 

3本目は、論文「個人投資家の金融知識と資産形成(藤木裕氏)」です。

こちらの論文は金融教育の重要性を再認識させてくれる一本となっています。

金融知識の計測に関する研究についてまとめてありまして、「OECD加盟14カ国についての研究であるAtkinson and Messy [2012]」などが挙げられています。「Big three question」と言われる複利、インフレ、株式分散投資に関することについても、多く書かれています。

また、金融広報中央委員会の2016年と2019年のアンケート調査の結果を用いた論文についても、かなりの数が挙げられています。本論文の著者も、ご自身の論文2本を引用されていて、機会があれば、そちらも読んでおきたいところです。
(メモとして記しておきます。「家計の金融知識と金融資産選択:「金融リテラシー調査」による実証研究」、「SDGs目標4と金融機関はどう向き合うか:金融商品の情報提供を中心に」)

先行研究を網羅するのにも大変ありがたい論文でした。笑

 

 

4本目は、論文「フィンマックの活動と紛争事例等について(三森肇氏)」です。

フィンマックとは、証券・金融商品あっせん相談センターのことで、金融分野の裁判外紛争解決手続きの専門機関として、中立・公正な立場で苦情・紛争を解決する業務やこれに付随する業務に取り組んでいます。(論文の要約部分より引用)

本論文では、フィンマックが対応した「相談」、「苦情」、「あっせん」について、その活動や内容について教えてくれます。フィンマックの存在は知っていたものの、どのような活動をしているかを知らなかったので、非常に参考になりました。

 

本論文の最終部に、「個人顧客が金融知識をしっかり持つことが重要である」と書き、基本的な知識として、元本保証ではないことを理解することや、自己責任であることを理解することが重要とあり、元も子もないのですが、やはりそうだよなと思います。

 

両者ともに理解していると思っていても、自己責任に関しては、しばしば受け入れることが難しい時もあるのかもしれません。

「やすべえさん、相場上がります?下がります?」と聞かれて、「どちらかと言えば下がりそうですかね」なんて答えて、しばらくして、「やすべえ!上がったじゃないか!!」と言われても困っちゃいます。自己責任、大事です。

ちょっと横道に逸れましたがこの辺で・・・。

 

 

最後に!

今月号は、「個人投資家の資産形成行動とその背景」という特集でした。

私は、日本の個人投資家含め、日本人が金融所得に対してポジティブなイメージを持って、労働所得との両輪の一つとして認識して、金融所得をいい感じに得ていって欲しいと思っています。その中で、個人投資家の資産形成行動を考えることは非常に重要で、金融商品自体の設計や、金融商品を保有する際の税制など制度設計や、金融商品を保有するための心理的なハードルを下げるナッジ的な考えや、本当に様々なことが研究されていくべきだと考えています。

冒頭で「株主優待と個人投資家の関係」について研究していると書きましたが、もっと視野を広げて取り組んでいきたいと思ったジャーナルでした。

 

本年もよろしくお願いいたします!