証券アナリストジャーナル9月号やすべえです。証券アナリストジャーナル、今月の特集は、「財務報告と経営の時間軸」です。

正直に言いますと、とっつきにくい特集だなぁと思いました。しかし、頑張って読み進めていきたいと思います!

ちなみに、動画版では1~3本目の論文についてお話しています。こちらのリンクから、または埋め込みの動画で見てください!

 

1本目の論文は「経営の時間軸の変化と新たな証券アナリストの役割(松島憲之氏)」です。

著者の松島憲之氏はこれまでも「新しい証券アナリスト像」を提言し続けてきた「アナリストのコーチ」的な方です。職場でご一緒させていただいた時期があり、すごい方と認識しています。すごい方なのですが、親近感の湧く方でもあります。

そんな松島氏が日本全国の証券アナリストに向けてメッセージを送っています。

目次からして良い感じです。「不確実性が高まるニューノーマルへのシフト」、「ニューノーマルでの経営に必要な思考方法」、「変化に気づくことと非財務情報の活用が重要」、「仮説構築力育成トレーニング」、「証券アナリストに求められるのは構造変化を予想する深掘りレポート」、「終わりに」となっています。

 

最初に歴史を振り返ります。「ワットが蒸気機関を発見」、「T型フォードの量産開始」といった転換点がありました。今回の新型コロナウイルス感染防止による人の行動はその類の「大きな転換点」という認識です。人材の流動化、ビジネスチャンスでもあるが既存事業が崩壊するリスクでもあるといった議論が続いていきます。

そして、そんな不確実性が拡大する時代には、「アート思考」と「デザイン思考」を活用すべきだという意見が出てきます。松島氏なりの両ワードの定義は、「アート思考」は「正解のない問題を考え抜く力を重要視するもの」、そして「デザイン思考」は「主観を大切にして対話や観察といった人間中心のアプローチで課題を解決するもの」としています。

 

中盤から証券アナリスト必読の文言が並びます。「証券アナリストが生き残る手段は、非財務情報分析の高度化による長期予測と言い切っても過言ではないだろう」とし、その後段で長期予測力を育成する方法を紹介していきます。

日経新聞の読み方を例にとり、同じ文章を読んだとしても考え方の違いで大きくインプットが異なってくることを主張します。仮説と検証、事前に仕入れていた知識との紐づけ、といったことがキーとなるということです。

 

これは、私がトレーダー時代に行ってきたこととかなり近いものです。まずは「記事を読む」、そして「記事を読んで何かを思う」、次に「記事が株価にどう影響するかを考える」、さらに「記事がこれまでの一連の記事の流れの中でどう評価されるかを加味して、株価にどう影響するかを考える」、プラス「過去のチャートの動きから織り込み具合を判断して、株価にどう影響するか考える」、といった思考のレベルアップを行っていました。トレーダー的には短期的な株価変動を考えて、アナリスト的には中長期的な株価の影響を考えるでしょうが、プロセス的にはかなり近いなぁと再確認しました。

 

最後には、松島氏が長年必要と主張されていることですが「長期予想レポート(深掘りレポート)」の重要性に言及します。本論文では、アナリストレポートにおいて、「アンチコンセンサスを正確に素早く提供するのが良いレポート」と前置きし、「長期予想レポート(深掘りレポート)」はより価値のあるレポートだと言っています。

 

 

2本目の論文は、「財務報告頻度の経済的影響(藤谷涼佑氏)」です。

副題に「四半期財務報告の政策評価の視点から」と入っています。四半期財務報告のメリット・デメリットがわかる論文です。多くの論文を引用して、メリット(ベネフィット)、デメリット(主にコスト)をまとめてくださっています。

まず、「株式市場への影響」ですが、総じてプラスの効果があると言えそうです。会計情報が株価に反映される速度が向上、より長期的な情報を反映、低頻度の財務報告企業に投資する投資家が同業の高頻度の財務報告企業を参照するなどの研究結果があるとのことです。

次に、「企業の投資行動への影響」ですが、こちらはまちまちと言えそうです。マイナス面では、よく言われるところですが、短期主義仮説という、投資プロジェクトの選択が短期的になったり、R&Dや広告費が削減されて長期的にネガティブな影響が出るといったものです。プラス面では、情報仮説という、経営者と投資家との間の情報の非対称性を緩和することにより、エージェンシー問題が軽減されるといったものです。

最後に、「財務報告を作成・公表するコストへの影響」ですが、こちらはマイナスの効果があるとなります。資料作成のための費用、作成した資料を一般社会に普及するための費用などとなります。

 

どのくらいの頻度で財務報告が行われるべきかということは、本論文でも研究されています(上場企業と非上場の有報提出企業を比較するというちょっとウルトラCな比較です)が、評価はなかなか難しいものです。

 

私としては、最低限のレベル(例えば1年に1回程度)を設定して、企業の努力(半期、四半期、月次など)に任せて良いのではないかと思います。次の論文に出てくる「中期経営計画」についても似たようなことが言えるのですが、「言われたらやる/ルールになっているからやる」というものだと、実効性のあるものになるのか?内容を伴うのか?という点で懸念があります。

どこまでやっているかを投資家に明解にわかるような形として、業績などは勿論ですが、開示姿勢(開示の頻度や開示の内容など)を含めて、投資家が判断するような形にするのが良いのではないでしょうか?

 

 

3本目の論文は、「制度開示における中期経営計画開示の実態と課題(中條祐介氏)」です。

ここ最近、「中期経営計画」を見るようになったなぁと思われる方は多いのではないでしょうか?「中期経営計画」の開示が増えてきて、この開示の意義などを分析していこうというのが本論文です。

 

まず、開示の状況として、どのくらいの企業が開示しているのかというデータから出てきます。2016年で言うと、87.6%の企業が策定していて、62.1%の企業が開示しているとあります。

その中で、開示している項目について言及があり、投資家が要望する項目と実際に開示されている項目にはズレがあるとなっています。投資家は「ROE」や「配当性向」について要望しているが、実際には開示されている割合が低いといったものです。企業様は、この事実をしっかりと見て、要望に応えて頂きたいと思います。

次に、開示企業の特徴が提示されます。興味深いことに、企業規模の大きい企業、業績の良い企業の方が中期経営計画を開示しているということが出ています。イメージの問題かもしれませんが、「中期経営計画」を出している企業はちゃんとしている企業というイメージがあって、実際、業績も良かったりするという事でしょうか。

 

終盤、筆者は、考えるべき課題として、中期経営計画が「3年ごとに繰り返されるルーティンワーク化あるいは儀式化が懸念される」と言っています。たしかに、そういった企業も有るかなと思いますし、筆者は処方箋として長期経営計画の必要性を主張します。

「たしかに」といったところですが、こちらも、どこまでやっているかを投資家に明解にわかるような形として、投資家が判断するような形にするのが良いのではないでしょうか?

 

 

4本目の論文は、「統合報告の導入が利益情報開示に及ぼす影響(調勇二氏)」です。

この論文は「統合報告」についてです。「統合報告って何?」という人も多いかもしれません。活用度が低いと思うのでしょうがない部分もありますが、「統合報告」とは「財務情報とそれ以外の情報を統合した報告のこと」です。英語で言うと、「Integrated Reporting」となります。本論文内では引用の形で「統合報告書は財務資本の提供者たる投資家に対して、企業がどのように長期にわたり価値を創造するかを説明することを主たる目的としている」と明快に書いてあります。

統合報告書を発行する企業は2011年で32社だったのが、2018年では414社となっているとあります。急速に増えていますし、投資家もその価値に気づきつつあると言えるのではないでしょうか。

論文の研究結果としては、「統合報告の導入が利益マネジメントや期待マネジメント(一時的な株価下落を回避するための行動)といった行動を抑制し得ることを示唆している」となっています。

 

 

最後に

今月はすべての論文に対して意見しているので、長くなってしまいましたが、最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!

毎月のことですが、証券アナリストジャーナルが送られてきまして、早く読みたい!と思う特集の月もあれば、そうでない月もあり、今月はどちらかと言えば後者の月だったのですが、どんな特集においても、読み終えてみると、有益なインプットが出来て良かったと思います。

このブログの読者の皆様におかれましても、興味深い!という特集の月もあれば、そうでない月もあると思いますが、ぜひ毎月のインプットとして目を通して頂けたらと思います!

ということで、今月は長くなりましたが、この辺にしたいと思います!では!