やすべえです。
少々マニアックな証券アナリストジャーナルという業界紙をかみ砕いていく毎月の企画ですが、今月、2021年2月の証券アナリストジャーナルを読み進めていきたいと思います!!
今月の特集は「サステナブルファイナンス」というテーマです!!
先月の証券アナリストジャーナルで「アフターコロナのESG投資(中空麻奈氏)」という論文がありました。
この号では、グリーンボンドってどうなんだろう!?みたいな話をしてまして、賛否両論なのですが、ご意見いただいたりいたしました。
例えば、A社は「普通社債」と「グリーンボンド」、両方を発行しています。「普通社債」についてはCO2の排出に繋がるビジネスを行う資金として使い、「グリーンボンド」についてはCO2の除去に繋がるビジネスを行う資金として使います。A社は専らCO2の排出に繋がるビジネスを行い、利益の源泉としています。ここで、A社の「グリーンボンド」を購入することは理にかなっているのでしょうか?
私は、債券が「普通」か「グリーン」かは「企業全体」として評価しなければいけないのではないかと思います。同じ信用リスクなのに「グリーンボンド」は割高というのも納得がいきませんし、発行体が用途を定めたり宣言したりして「グリーンボンド」になることで「普通社債」よりも有利な条件で発行するというのも茶番感が否めません。
そして、毎年のこの時期は、この類の特集が組まれていまして、去年はこんな感じでした。
動画版では2、3本目の論文についてお話しています。こちらのリンクから、または埋め込みの動画で見てください!
前提として、サステナブルファイナンスって何?という話ですが、「解題」にDirk Schoenmaker氏の論文の引用があり、説明されています。
F=financial value, S=social impact, E=environmental impact, T=total valueとすると、
「サステナブルファイナンス1.0」は「F > S and E」
「サステナブルファイナンス2.0」は「T = F + S + E」
「サステナブルファイナンス3.0」は「S and E > F」
となるとして、最初は財務的価値が大事やと思ってるけど、そのうち、財務的価値と社会インパクト、環境インパクトを合計したものが大事やと思ってきて、3.0まで行くと、社会インパクトと環境インパクトが財務的価値よりも大事なんやとなっていきます。1.0から発展していくものと言っています。
1本目の論文は「EUにおけるサステナブルファイナンスの動向と日本に与える示唆(堀江隆一氏、鶴野智子氏)」です。
サステナブルファイナンスの本場、というか先進的な取り組みが行われているのが「EU」であるとして、EUのサステナブルファイナンスに関する動向を教えてくれる論文です。
2018年にアクションプランが策定されました。10項目あって、本論文ではタクソノミー、ベンチマーク、機関投資家等の開示、企業開示について紹介があります。
読んでフムフム、という感じなのですが、全体感として「窮屈な感じ」がします。
理想郷を目指すも理想郷になっておらず、煩雑そうなプロセスが面倒くささを喚起させる感じです。
EUとしては、人類が未来永劫幸せであることをゴールとした時に、サステナブルファイナンスが答えなのでしょうが、サステナブルファイナンスの考え方が受け入れられない国や受け入れられない主義があって当たり前と思います。
それでもやるしかないとしてEUは推進しているわけですが、何かもっと良い方法があるんじゃないかなぁと思ってしまいます。
モヤモヤしながら2本目の論文へ・・・。
2本目の論文は、「サステナブルファイナンスをめぐる規格化の動き(加藤晃氏)」です。
最初の方に、『「タクソノミー」は(中略)、サステナブルファイナンスを推進する上では、持続可能な経済活動であるか否かを分類する基準である。』とあります。明解です。
あらかじめタクソノミーを作っておくことによって、これはサステナブルファイナンスですよ、これは違いますよ、というのを判断できるようにしようということになります。
後の段落には、事業活動を行うことで環境に悪い影響を与えること(負の外部性、外部不経済)は、公的セクターによる規制や課税により解決される問題だが、世界規模の対応が求められている。国ベースだと効果的に行えないことがあるので民間資金の活用に期待が高まった。とありました。
1本目の論文のモヤモヤが解決するかと思いきや・・・、
まだモヤモヤしています・・・。
で、タクソノミーってのがあれば万事解決かと言うと、そうではないと思っています。タクソノミーのおかげで企業を4つに分類できそうではありますが。
①サステナブル事業運営をしているxサステナブル情報開示を行っている
②サステナブル事業運営をしているxサステナブル情報開示を行っていない
③サステナブル事業運営をしていないxサステナブル情報開示を行っている
④サステナブル事業運営をしていないxサステナブル情報開示を行っていない
①と②に分類される企業は恩恵があるべきです。そして、①と③に分類される企業は情報開示をするためのコストをかけています。となると、
①コストをかけていて、恩恵を受けている
②恩恵を受けない(サステナブル情報開示を行っていないため)
③コストをかけていて、恩恵を受けない
④恩恵を受けない
となります。
①はコストをかけなければいけない不利益、②は恩恵を受けられない不利益があることになり、④が①や②に向かう明確なインセンティブが無いように感じます。どうなんでしょう。
3本目の論文は、「サステナブルガバナンス委員会とサステナビリティ(内ヶ﨑茂氏、水谷晶氏)」です。
サステナビリティガバナンスという、企業の経営にサステナビリティを統合していこうという考え方を紹介する論文です。
私はサステナブルファイナンスよりも、サステナビリティガバナンスの方がしっくりきました。そして、大切だと思いました。
サステナビリティガバナンスは、様々なステークホルダーに対して持続的に良い影響を与える企業統治と考えてよいと思います。
国連環境計画(UNEP)の傘下にあるUNEP FIというところが、サステナビリティガバナンスを3段階に分けていまして、第2段階はCSO(Chief Sustainability Officer)を指名するといった段階、第3段階はサステナビリティが何もかも統合されているような段階というイメージです。
サステナビリティガバナンスを行うことによって、その企業で働きたい、その企業と取引したい、その企業に投資したい、という思いが生まれてきて、それこそサステナブルファイナンスに繋がっていくはずです。
読み終えて、サステナビリティガバナンスはサステナブルファイナンスの上位概念なのでは?と考えました。
4本目の論文は、「サステナブルファイナンス時代の情報開示と企業価値(伊藤晴祥氏)」です。
こちらは上記の3本とは毛色の違う論文になります。
企業価値をΣ(CFt/(1+WACC)^t)といったノーマルなもので表して、サステナビリティに関する情報開示によって企業価値がどのように高まるかを考えていきます。
沢山の論文を引用しながら、サステナビリティの追求でキャッシュフローが向上するとは言い難いとか、WACCはざっくり下がりそうとか、Σの長さ=企業の存続年数を延ばしそうといった議論が行われます。「そりゃ、企業価値あがるんちゃうの?」と思うのではなく、企業価値を分解して、丁寧に考えていくというプロセスに納得感を感じました。
昨年の2月のジャーナルで同氏は「SDGs 債の価格形成に関する分析と投資に際しての留意点」という論文を書いていらっしゃってその時も私は「納得感があります」と書いていたようです。余談です。
後半に先進事例として「エーザイ」の2020年度統合報告書について書いています。「サステナビリティと企業価値との関連に一石を投じた画期的な事例」と〆つつも、理論的にはやや問題があると8つ指摘するという、氷水と熱湯を同時に投げ込むような感じになっていて、読みながらコーヒーを吹き出しそうになりました。しかし、フォローの投稿とも言えましょうか、「ステークホルダー主義時代のアカウンタビリティ(柳良平氏)」という投稿がこの号に入っていまして、実務家であり教鞭も取られているエーザイCFO柳氏の優しい包み込むようなコメントでお後がよろしい感じになっています。
最後に
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!
毎回思うのですが、私はジャーナルを読む一人間でしかありませんので、偉そうなコメントをする資格なんてありません。好き勝手に書いていて良いのかと思っています。
しかし、この投稿を読んで、特集に興味を持って下さる方、今回であればサステナブルファイナンスに興味を持って下さる方がいらっしゃるわけで、そんな方にとってはこの投稿はお役に立っているのではないかと思っています。
間違っていること、失礼なことも書いている可能性がありますが、ご容赦いただけましたら幸いです。
これからも宜しくお願い致します!!
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- きんゆうちゅーぶ, 証券アナリストジャーナル