証券アナリストジャーナル2月号やすべえです。今月の特集は、「グリーンボンド等 SDGs 投資を考える」です。昨今、ホットな話題となっている環境を鑑みた投資ですが、ジャーナルとしては、2018年1月の「多様化するESG投資」、2019年4月の「地球温暖化と株式市場」という大きな特集を組んで以来の特集で、今回は債券投資にフィーチャーしたものとなっています。

証券アナリストジャーナル2018年1月号(多様化するESG投資 特集)を読んで

証券アナリストジャーナル2019年4月号(地球温暖化と株式市場 – 特集)を読んで

では、いつものように1本目の論文から読み進めていきます。

 

 

1本目は、論文「世界的に見たグリーンボンド等 SDGs 債の発行状況と投資の意味合い(江夏あかね氏)」です。

本論文では、「債券におけるESG/SDGs」、「SDGs債の発行及び投資状況」、「SDGs債のプライシング」、「SDGs債の投資の意味合い」、といったことが書かれています。

 

やすべえはこのジャーナルが出る前から「SDGs債って何なんだ?」と思っていましたが、本論文でいろいろと説明されています。ある企業Aの普通社債とある企業AのSDGs債にはどういった差があるというのでしょうか?株式の世界に置き換えるならば、ある企業Aの普通株とある企業AのSDGs株があるということになりますが、それは概念的にあり得るのでしょうか?

今回、本論文を含め、4つの論文に触れることが出来、また調べることが出来ました。結論から言いますと、日本証券業協会にSDGs債に関するページが有り、SDGs債はありますと説明されていますし、同ホームページには「調達資金がSDGsに貢献する事業に充当される」などと書いてありますので、SDGs債は資金用途などで普通社債と差をつけているということになります。

 

さておき、論文の内容に戻ります。「SDGs債の発行及び投資状況」には、世界におけるSDGs債の発行状況のグラフが載っていますが、2015年あたりから大きく増え始め、2019年には2500億ドルを超えているようです。さきほどの日本証券業協会のページには「日本国内で公募されたSDGs債の発行額・発行件数の推移」というグラフが載っていまして、それによれば、2016年には450億円程度だった金額が2019年には8000億円を超える規模にまで成長していることが分かります。

「SDGs債のプライシング」については、プライマリーにおいてもセカンダリーにおいてもプレミアム(割高)になっているという状況だそうで、程度問題と言ってしまえば良いのかもしれませんが、同じ企業で差があるというのは最良執行といった問題もあり、なかなか納得できないところであります。

 

 

2本目は、論文「SDGs 債の価格形成に関する分析と投資に際しての留意点(伊藤晴祥氏)」です。

論文のタイトルからわかりますが、1本目で疑問に思ったSDSs債の価格形成に関する分析をしてくれています。

 

実際の債券の価格形成を分析し、3つの「SDGs債における留意点」を示しています。①「SDGs債の価格が公正ではない可能性がある」②「SDGs債が発行体に対してSDGsを達成する誘因を必ずしも与えるものではない可能性がある」③「SDGsなど環境や社会貢献分野に調達資金の使途を制限していても、それについての保証がない」というものです。

それぞれの問題点に対して、理由も示されているので、納得感があります。SDGs債のマーケットが黎明期~成長期であるので、制度などで多少問題があることはやむを得ないところですし、こういった指摘を甘んじて受け入れた上で、マーケットの仕組みなどが成熟化していくのではないかと思います。

また、筆者は「終わりに」にて、「あるべきSDGs債のスキームについて研究を継続したい」と書いていらっしゃるので、やすべえとしては早くも続編を楽しみに思っています!

 

 

3本目は、論文「サステナブルファイナンスと外部評価(相原和之氏)」です。

2本目の論文のところで、「SDGs債のマーケットが黎明期~成長期」と書きましたが、まさにそういった時期には外部評価などを利用して、しっかりと定着に向けた努力が必要であるはずで、その外部評価に関する概要が出てきます。

外部評価には4つのパターンがあるとあります。それぞれ、「セカンドパーティーオピニオン」、「検証」、「認証」、「格付・スコアリング」となっています。資産運用主体からのアウトソースを受け入れているような印象です。資産運用主体のマンパワー的な問題、アウトソースすることによる責任の移管というのも少し感じられますでしょうか?

論文後半には、外部評価を評価する機関についての紹介があったりします。外部評価の独立性が得にくい状況下では致し方ないのでしょうか。なんか、ちょっと違うような気がしますが・・・。

 

 

4本目は、論文「GPIFと世界銀行グループによる研究と投資のパートナーシップ(大石哲也氏、西田大城氏、八木美菜氏)」です。

GPIFの方が書いていらっしゃる論文で、実務家として思う事を列挙していて、かなり価値が高いなと思いました。第3章に「株式ESG投資との相違点」として13の相違点が列挙されて、その相違点が与える影響を9つ列挙しているのですが、株式ESG投資について少し知っている私にとって「債券ESG投資」を理解するのに有益なものでした。例えば、株式と債券は投資期間が異なるので、株式保有者と債券保有者でエンゲージメントの方針に違いが出てくるといったことが載っています。

引用するには多すぎるので残念ですが、ご興味ある方はぜひ本文を読んでみてください!(ダウンロード購読などこちらです

 

債券ESG投資の研究においては、2018年4月に公表された「GPIFと世銀グループ、ESG共同研究の報告書発表」からリンクで飛ぶことのできる「債券投資への環境・社会・ガバナンス(ESG)要素の統合」という報告書がベースになっています。この論文を読むまでこの報告書の存在を知らなかったのですが、この報告書は、すごいです。おそらくESGやSDGsの関係者は当然読んでいる「教科書」だと思います。

 

GPIFはユニバーサルオーナ―として責任をもって、マーケット全体が良くなるようにする活動を行っています。世界最大の投資家として、株式ESG投資、債券ESG投資、両面で日本のフロントランナー的な役割を担っています。すごいですね!

 

 

最後に!

今月号は、「グリーンボンド等 SDGs 投資を考える」という特集でした。

 

今のスキームでは起こり得てしまう事ですが、SDGsを重視する債券投資家として、SDGsを一生懸命頑張っている企業の普通社債を買わず、企業としてSDGsをそんなに頑張っていないところのグリーンボンドを買うという行動は、本質的に正しいことなのでしょうか?

私はやっぱり、おかしいことじゃないかなと思ってしまいます。評価するなら企業を「丸ごと」評価しないといけないのではないでしょうか

「丸ごと」評価するスキームを取り入れて、SDGsスコアの低い企業にはスタンプデューティー的な追加的トランザクションコストを課す、なんてことをしたら一気にSDGs重視の経営が進みそうな気がしますが、いかがでしょうか?

 

ということで、徒然なるままに書いてまいりましたが、このへんで終わりにいたします。今月もお読みいただきまして、ありがとうございました!