証券アナリストジャーナル11月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「ESG情報開示とその利活用」という特集です。

ESG経営というのは、多分に非財務情報が入り、分かりにくいものであると思っています。

そういった「分かりにくい!」という先入観からか、私は、ESGの推進には賛成ですが、ESGを取り巻いてるものに対しては懐疑的に見ています。具体的には、

「ESG投資家にESG経営を正確に判断する能力は備わっていない。」

「ESG投資家は、ESG情報開示をやっているESG経営企業は評価できるが、ESG情報開示をやっていないESG経営企業は評価できない。」

そんな風に思っていますが、そんな私の先入観を4本の論文はどう変えてくれるでしょうか?

それでは1本目から読み進めていきたいと思います。

 

1本目の論文は「ESG情報開示に関する国際的な動向と示唆(藤野大輝氏)」です。

本論文を読み進んて行くと、第2章に「主要なESG情報開示基準の概要・違い」という図表が載っています。
この図表には6つの主要なESG情報開示基準(GRIスタンダード、国際統合報告フレームワーク、SASBスタンダード、CDP、CDSBフレームワーク、TCFD提言)が載っているのですが、それぞれがかなり違った目的・コンセプトを持っています。
こんな乱立状況では、ESG投資家も含め投資家は、ESG経営の評価軸がバラバラで評価出来ないのではないでしょうか。

具体的には、ESGのEだけを見ているのか、EとSなど複数を見ているのか、Gをどのぐらい重視しているのか、といったESGの中でのフォーカスする箇所の違いがありました。
加えて、 シングルマテリアリティという、環境社会問題が企業業績に与える影響を開示すべき重要な情報とする考え方と、ダブルマテリアリティという、企業業績に与える影響に加えて、環境社会に与えるインパクトも重要な情報として開示する考え方の違いもありました。
さらに、それぞれのESG情報開示基準が、「原則主義」という開示の具体的内容が企業に委ねられているものと、「細則主義」という開示すべき項目やデータの算定方法など詳細なルールを規定しているものとの違いがあることもわかりました。

このように乱立していては、企業はどのESG情報開示基準を採用すれば良いのかもわからず、 投資家はそんな企業のバラバラな開示を比較することが難しいこととなり、ESG情報開示の手間に比べて、投資家が得られる便益が非常に小さくなってしまうということになります。

各団体は問題意識を持っており、CRD(Corporate Reporting Dialogue)を設立して、この状況を打開しようと動いているようです。
そんなさなか、IFRS財団による国際的な統一基準の作成という別な動きもあり、ESG情報開示基準のスタンダードを目指す戦いがそこにあるという気もいたしました。

後半は、各国地域のESG情報開示に係る規制について書いてあります。多数派の流れとして、TCFD提言(気候変動に関連するリスクと機会の情報がメインのESG情報開示)に沿った開示が進められているようです。「E」の分野でのスタンダードはTCFD提言が獲得したということになるのでしょうか。

論文を読み終えて、かなりESG情報開示に関して知識を蓄えることができました。 良い論文に感謝です。

 

2本目の論文は「良いESG開示は経営そのもの(三井千絵氏)」です。

1本目の論文で「ESG情報開示に関しては、色々な団体が乱立していて、企業の情報開示の手間に比べて、投資家が得られる便益は小さくなってしまう」といった問題を書きました。この論文では、「ESGのレーティングや指数は世界中で249個もあり、このうち60%が企業にアンケートを送ると企業は149個のアンケートに回答しなければならない」と紹介されています。無駄極まりないことが起こっているようです・・・。

本論文の中盤では、筆者の考える「良いESG開示」を行っている企業が紹介されています。
筆者の分析では、『「良いESG開示」を行っている企業は、「良いESG開示」に取り組んだのではなく、ESGを考慮した経営を行ない、それを発信した。その結果として「良いESG開示」になった。』となっています。
なるほどと思うところですが、一方で、「良いESG開示」は、ESG投資家が見ているESG情報開示とマッチしていないという議論も出てきます。このミスマッチは、「良いESG開示」のフォーマット(スタンダード?)が確立されていないことが原因かもしれません。

「良いESG開示とは、実に難しい」と筆者は悩みながら、「企業の取り組み→より良い開示→投資家の理解→標準化」というプロセスを回していくべきだと論文を結んでいます。

 

3本目の論文は「ESG開示からみる統合報告書のあり方(小野塚惠美氏、貝沼直之氏)」です。

「統合報告書」というワードを最近よく見聞きします。 簡単に言うと、「統合報告書」は、財務情報と非財務情報を統合して報告するような書類ということだと私は理解しています。本論文はESG開示からみる統合報告書のあり方を提言しています。

議論の前段階として、企業による長期的な価値創造(LTVCと呼ぶ)が大切だとします。
また、ステークホルダーを従業員、顧客、サプライヤー、地域、株主として、統合報告書を各ステークホルダーとのコミュニケーションツールと考えます

上記前提の中で、①各ステークホルダーと「固有周期(いわゆる時間軸のようなもの)」をマッチさせて、統合報告書を発信するべきである。②そうすれば、各ステークホルダーが求める統合報告書となり、③その結果、LTVCが上がっていく、という論理展開になっています。

この論文では、2本目の論文でいうところの、「企業の取り組み→より良い開示」をひたすらやりましょうと主張している感じです。

 

4本目の論文は「欧米でのESG開示を用いたエンゲージメント活動(田中喜博氏、濱田功氏)」です。

ESG投資家は企業とどう接していくべきでしょうか?
そのヒントがこの論文には書かれています。

ヒントの中核が、ステークホルダーセイリエンス理論というフレームワークです。
これは、株主が企業に何かを要求する際には、①要求におけるパワー、②要求における正当性、③経営者の即座の注意を求める緊急性この3つの特性が重要であるというものです。

パワーを例にとると、環境や社会の課題に対しては「ダイベストメント」という株式の売却というパワーが用いられているようです。一方で、議決権行使や株主提案といったパワーは積極的には用いていないそうです。
パワー1つをとっても、どのようなパワーを使うのかを考えていくことになります。

詳細は論文を読んでいただいた方が良いですが、この3つの特性を考えるフレームワークは、本論文のテーマである「株主が企業に何かを要求する」といったエンゲージメント活動には間違いなく役に立つでしょうし、それ以外にも役立つフレームワークだなと思いました。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、「ESG情報開示とその利活用」という特集でした。いかがだったでしょうか?

ESGを取り巻いているものを懐疑的に見るという私の考えは・・・・・結局変わりませんでした。

しかし、2番目の論文の主張がグッときました。

良いESG経営をしている企業は、いずれESG投資家、そして全ての投資家に理解され、評価されていくでしょう!
良いESG経営をしている企業を見極める力を日々磨いていくべきだ!

そう思いました。

ということで、今月号も最後までご覧いただきまして、ありがとうございました!感謝!