証券アナリストジャーナル12月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「カーボンニュートラル時代における資産運用」という特集です。

先月の特集が「ESG情報開示とその利活用」でしたので、2カ月連続でESGの話題になっています。時代ですね!

それでは1本目から読み進めていきたいと思います。

 

1本目の論文は「脱炭素社会と金融の役割(水口剛氏)」です。

先月の1本目の論文で、ESG情報開示基準が統一されていなくて、シングルマテリアリティだったり、ダブルマテリアリティだったりという話をしました。

シングルマテリアリティという、環境社会問題が企業業績に与える影響を開示すべき重要な情報とする考え方と、ダブルマテリアリティという、企業業績に与える影響に加えて、環境社会に与えるインパクトも重要な情報として開示する考え方の違い

この論文では「脱炭素金融論の分析視角」という章において、このシングルマテリアリティとダブルマテリアリティについて議論しています。結論としては、ダブルマテリアリティで考えるとなります。

理由の一つ目は「グリーンウォッシュ(環境効果が伴わないのにグリーンとラベリングすること)」です。ESG投資をしていて、投資先がリターンは良いけれども「グリーンウォッシュ」されていたら、宜しくないですよね?つまり、「本当にグリーンかどうか=ダブルマテリアリティで見ることのできる、環境社会に与えるインパクトがプラスかどうか」を見ていかなければいけないということです。

理由の二つ目は「温暖化でポートフォリオ全体がやられる懸念」です。ミクロで見た相対リターンの優位性も、マクロで地球温暖化が進んで全体が損失してしまっては意味が有りません。ダブルマテリアリティで見ることのできる、環境社会に与えるインパクトをユニバーサルオーナーシップ的な考えを持って見ていかなければいけないということです。

 

後半は、「タクソノミー」というEUがやっている環境に関する分類システムのことや、「トランジション」という理想的な世界に向かって徐々に移行していくという考えについて書かれています。

「タクソノミー」を作ったり、「トランジション」を考えるというのは、行き過ぎた資本主義をどう修正していくかという議論です。縦軸に「社会共通の利益の考慮⇔個人利益優先」、横軸に「政府による統制⇔市場メカニズム」と取り、「株主資本主義」、「ステークホルダー資本主義」、「国家資本主義」という3つのモデルを考えます。

この3つのモデルで、どれが最適というのは言えないと思うのですが、筆者が題名にも入れている「金融の役割」というのは、とても大きなものだと思います。
「金融の役割がダメダメで、環境破壊が進み、ついには地球を壊してしまった」とならないようにしていかなければなりません

 

ちなみに、著者の水口さんは2019年の4月号の証券アナリストジャーナルで「気候変動問題とESG投資」という論文を書いていて、その論文も非常に勉強になりました。ご参考にして頂けましたらと思います!

 

2本目の論文は「気候変動/ESGを資産運用に統合する思考・基準・人材(岸上有沙氏)」です。

本論文を読み進めていく中で、「プラネタリーバウンダリーとMPTの限界」という節がありました。「プラネタリーバウンダリー」は地球の環境資源は限りがあるという考え方で、「MPT(モダンポートフォリオセオリー)」は金融資産への投資比率を決定する理論です。どんな関係性があるのか私には理解出来ませんでした。独立した2項目を1節でまとめたのかな・・・。

3章以降は、「過渡期にあるESG情報の基準、開示、評価の行方」、「ESG要素の統合に取り組み体制づくり」と続いています。

参考文献の多さからかもわかりますが、様々な情報を取り入れて、現状把握に努めています。

 

3本目の論文は「地球規模の気候変動がもたらす投資機会とリスク(シェリア・アンティア氏、デイビッド・クラウスナー氏)」です。

PGIM(プルデンシャル・ファイナンシャル傘下のアセットマネジメント会社)のお二方が書かれています。この論文のもととなるレポートは、PGIMのホームページからダウンロードできます。英語、ドイツ語、日本語、中国語で読めるようになっていて、素晴らしいです。凄いです!

上記のリンクにあるレポートの方が詳しいのですが、ジャーナル上の論文でも概要がつかめるようになっています。
以下は、私がレポートを読みながらメモしたところです。

① 今後20年の気候変動は既に概ね確定している・・・今日の気候変動は数十年前に排出された温室効果ガスの産物だから、そうなってしまう。中国において各年に深刻な干ばつ被害が発生する確率は上昇するし、ブラジルで危険な猛暑日の日数が増加することも確定的となる。

②ーA 気候問題はマクロ経済に大きな影響を及ぼす・・・労働生産性の低下は世界GDP最大2%の影響。農業生産高はテクノロジーの進展や地球温暖化に対する取り組みが無い場合6-14%減少。国の緊急支出は危機対応などで数千億ドル/年に。

②ーB 気候問題が新興国に与える影響はまちまち・・・低リスクに挙げられるのは、韓国、チェコ、ポーランド、UAE、チリ、ロシア、マレーシア、ハンガリー。高リスクに挙げられるのは、南アフリカ、ブラジル、インドネシア、フィリピン、インド、トルコ、メキシコ、ペルー。

③ 気候問題は「時間軸の悲劇」にハマっている・・・気候変動の影響は私たちが考えるよりも後になって表面化するので、「現在の市場参加者が現時点において特に吸収したいとは思わないコストを将来の世代に先送りしている」。(国債発行・償還のタイミングについても同様の議論がある・・・。)

④ 資本市場が多くの気候リスクを一貫性なく織り込んでいる・・・「ダイベストメント」はいわばゼロイチのディシジョンであり、資本市場に歪みを生じさせ、潜在的な投資機会を発生させている。

⑤ ポートフォリオの気候リスクヘッジの3段階・・・グローバル機関投資家の4割超の投資家は何もしていない。まずは、短期の予測可能な気候原因のリスクエクスポージャーを計測したい。その次の段階として、見えている物理的リスク以外にあるサプライチェーンの部分部分などを分析していきたい。

PGIMのレポートは、気候変動のものだけでなくて、「パンデミック後の世界」とか、いろいろ出ているようです。この論文を読むまでは何一つ知らなかったので、知れたというだけでもありがたいものでした!
興味を持った方、ぜひPGIMのレポート、読んでみてください!

 

4本目の論文は「気候変動リスクに対応する株式運用の変化(内山雅浩氏)」です。

「気候変動リスクに対して、具体的にどうすれば良いのか?」というのは大きな問題で、先ほどの論文でも「グローバル機関投資家の4割超の投資家は何もしていない」とありましたが、「一歩目から分からない!」と躓くようなことだと思います。本論文では、有難いことに第一歩からの進め方が書かれています!

その第一歩ですが、「企業のGHG(温室効果ガス)排出量」のデータを収集することとあります。企業のGHG排出量を時価総額、売上高などで割り算して使うとあります。たしかに、そのデータがあれば使いたいですし、使わない手はないと思います。

どこでそんなデータが手に入るかということなのですが、企業のGHG排出量は、環境省の温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度というサイトで見ることが出来ます!
私は、この論文を読むまで知りませんでした!(恥ずかしいぃ)

中身を見ていきます。当然と言えば当然ですが、製造業が排出量の上位に来ることになります。
業種別の順番を見ていくと、トップの排出量の業種が「鉄鋼業」、次いで「化学工業」、そして「窯業・土石製品製造業」、「石油製品・石炭製品製造業」、「パルプ・紙・紙加工品製造業」、「輸送用機械器具製造業」となっています。

株式運用をやっていく際に、この結果をもとに、自分のポートフォリオから「鉄鋼業」など6業種の銘柄を除くということになるのでしょうか?

これは賛否両論があると思います。ポートフォリオから除外したとしても、これらの業種のGHG排出量が減るわけでもないですし、これらの業種はGHG排出量が多くても不必要な業種というわけではないのです。
論文内でも、「こういったネガティブスクリーニングやダイベストメントではESGを重視しない投資家に所有権が譲渡されるだけであるから、GHG排出量の削減に貢献しない」と言ったことが書かれています。
投資家全体の動きとしてGHG排出量の削減を訴えていかなければいけないというのが非常に難しいところだなと思います。

この他、様々なことが書いてあり書ききれないところですが、
大事なことは気候変動リスクにどのように対応していくかを「確定」して「公表」して「実行」していくことと思います。
「私たちは、気候変動リスクを出来る限り排除して、リターンの低下はやむを得ないと考え、運用していきます」とか、
「私たちは、リターンの極大化を目指して、気候変動リスクを分析しながら、割安な株式を購入していきます」とか、
そのような「確定」、「公表」、「実行」になっていくのかなと考えました。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、「カーボンニュートラル時代における資産運用」という特集でした。いかがだったでしょうか?

リスクとリターンという2軸で考える時代が終わりつつあります。これからの資産運用の考え方はリスク・リターン・社会的インパクトの3軸です。
当面は「時間軸の悲劇」にハマって、2軸で考える人が儲かっていくかもしれませんが、そこで得た超過リターンというのは喜ぶべき超過リターンなのでしょうか?

ということで、今月号も最後までご覧いただきまして、ありがとうございました!
感謝!

(動画版はこちらのサイトにアップしますが、もう少々お待ちいただけたらと思います。)