証券アナリストジャーナル8月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「設備投資と株式市場ーわが国の現状と今後の活性化を期待してー」という特集です。かなり難解な特集と思いました。どこまで解きほぐせるか分かりませんが、今月も4本の論文を読んでまいります!

 

1本目の論文は、「平成時代の日本の設備投資動向と第4次産業革命の到来(福田佳之氏)」です。

バブル崩壊後、失われた10年、20年と言われた日本ですが、自然災害や政治イベント、経済イベントも多かった平成時代でした。簡単に振り返ってみれば、1995年には阪神淡路大震災があり、2008年にはリーマンショック、2009年には政権交代があり、2011年には東日本大震災がありました。そういった様々な出来事があった中で、設備投資がどのような背景で推移したかということは分析が難しそうなところではあります。

また、そもそも設備投資というものが、世の中の流れが速くなってきた中で、難しい意思決定になっているところもあります。設備投資したモノがすぐに陳腐化するという懸念、そもそも設備投資よりも研究開発に重きを置くべき時代背景、ソフトウェアの投資にしても、サブスクリプション的な利用方法を行うことによる「費用」への転換、といったファクターが考えられ、一様に「設備投資」を論じる難しさを改めて感じるところです。

 

本論文では、「三つの思い込み」と題して、読者に考え方の転換を促します。一つ目は「製造業はものづくりとの思い込み」です。「製造業だからハードを提供しなければならないとか、サービス業だからソフトしか提供できないとかいった常識は、今後の事業機会を逸することにつながりかねず、」との主張があり、「ご尤も!」と思います。一昔前の話ですと、データを貯めるストレージを社内に設置するのか、クラウド上のストレージを借りるなりしてデータを貯めるのかで、大議論になってたりしましたが、今でも結構そういう話があるからこその、一つ目の思い込みなのではないかと。

二つ目は『「設備投資=有形固定資産」との思い込み』です。こちらも、上記の大議論が当てはまりますが、一昔前の話ですと、前例がないとか、会計上わけわかんなくなるからやめてくれとか、そういった抵抗勢力があった気がします。「米国においては有形資産よりも無形資産への投資のほうが上回る状況である」との事実の紹介と、「日本企業は無形資産への投資を加速させていかなければならない」という提言に対しては、「大事なところだ!」と雑誌の紙面に思わずアンダーラインをひいて注目しました。

三つめは『「設備投資は日本企業がするもの」との思い込み』です。無形固定資産の時代では、モノの設備投資でないために、どこどこという場所に設備投資するという概念がありません。世界の裏側にある無形固定資産も使えるということですので、この考え方も大事なことと思います。

 

福田氏の危機意識と、アツい思いが伝わってくる論文でした。

余談ですが、令和時代に入り、「平成時代の・・・」というネーミングのレポートはウケそうですね・・・。

では、2本目の論文に移ります。

 

 

2本目の論文は、「設備投資の収益性への反応はなぜ低下したのかー長期パネルデータによる分析ー(小川一夫氏)」です。

こちらの論文は設備投資に関していろいろ調べていくと、日本の企業像が年を経るごとに、筆者の分類における「成長企業(設備投資に積極的)」の比率が減り、同じく筆者の分類における「リストラ企業(設備投資に消極的)」の比率が増えていることが浮き彫りになるという話です。

つまり、ボトルネックは、設備投資を誘引する施策では無くて、設備投資を積極的にやる企業群が減っている事実という、何といいましょうか、少し悲しい話です。

 

 

3本目の論文は、「研究開発投資に関する実証分析ー研究開発税制が企業行動に与える影響ー(川口真一氏)」です。

設備投資を誘引する施策として、研究開発税制というものは(ボトルネックではないようですが)もちろん大事なものなのでしょうが、その分析の中で、「フローの内部留保率が低い企業ほど売上高に占める研究開発投資の比率は高い」という仮説を検証していきます。

 

結論から言えば、上記の仮説は支持されるのですが、議論の中で、「企業規模の大きい企業ほど多くの研究費を使用している」ですとか「法人税を支払っていない赤字企業は研究開発減税を享受することができない」というものがあり、なるほど、富める者が富む仕組みなのかと考えさせられます。

こういった問題をどう解決すべきか考えてみると、VCやCVCの活用というのがまずもって思い浮かびます。そして、研究開発減税に対応する、CVC促進のための税制なんていうのもアイディアとしてはありそうです。中小企業向けの研究開発アクセラレータープログラムといったものも必要なのではないでしょうか。

 

 

 

4本目の論文は、「設備投資の情報開示に対する株式市場の評価ーメタ・アナリシスの手法による先行研究の証拠の統合的解釈ー(太田裕貴氏)」です。

こちらの論文は、「メタ・アナリシス」という「同一のテーマについて行われた複数の研究結果を統計的な方法を用いて統合すること、すなわち統合的なレビュー」の手法を使って、様々な先行研究を繋げていくといったことを行っています。

さまざまな先行研究がレビューされていますが、評価が結構割れています。参考文献の数が30近くありますので、設備投資と株式市場の関連性の研究をしたい場合には論文リストとしても活用できそうです!

 

さて、そのメタ・アナリシスの結果ですが、「設備投資の増額に関する情報開示に対して株式市場がポジティブに評価」となったとあります。また、「設備投資の減額に関する情報開示に対して株式市場がネガティブに評価することが示唆されるものの、その統計的検定力は必ずしも強くない」とあります。

市場は、しっかりとしたキャッシュフローといった「現実」を見ている一方で、将来生まれるかもしれない利益といった「夢や希望」も見ています。「夢や希望」は、期待先行で一旦膨らんで徐々にしぼんでいくような傾向があると思いますので、今回議論されている「設備投資の増額に関する情報開示」というものは、「夢や希望」が期待先行によって評価が増大するものであるのかなと、分析を見て改めて思った次第です。

 

 

最後に!

というわけで、今月の証券アナリストジャーナルは、「設備投資と株式市場ーわが国の現状と今後の活性化を期待してー」という特集でした。解題に載っていましたが、世界の2017年度の設備投資は約2.26兆ドルだそうで、これは、2018年度に世界企業が株主還元に回したお金である約2.38兆ドルに匹敵する額であり、当然ながら将来のマーケットに大きな影響を及ぼす重要なファクターです。難しい分析を含む論文が多かったように思いますが、今後もしっかりと見ていかなければいけないと思います。

最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。