証券アナリストジャーナル5月号やすべえです。証券アナリストジャーナル、今月の特集は、「金融のデジタル化とデータサイエンス」です。先月からですが、ページの下の方に動画版を付けていますので、あわせてご覧いただけましたらと思います。

新型コロナウイルスの感染拡大防止ということで引きこもり生活、変化の無い生活を送っていますと、刺激が無いですね。そんな時に、証券アナリストジャーナルを読んで、少し刺激を得てみてはいかがでしょうか!?

ということで、1本目の論文から読み進めていきます。

 

1本目は、論文「金融デジタライゼーションの進展に伴う制度整備(中島淳一氏)」です。

著者の中島淳一さんは、金融庁の方です。一度、京都大学大学院での講義でお話してくださって、分かりやすくお話しいただいたことを思い出します。

本論文では、金融庁がここ数年の間で行ってきた、金融高度化に伴う制度整備について知ることが出来ます。仮想通貨交換業の創設金融機関によるフィンテック企業の子会社化に対応するための法整備電子決済等代行業者の創設取引所における高速取引行為者(HFT)の登録制導入仮想通貨を暗号資産に改称し、利用者保護の法改正金融機関の持つデータの利活用に関する制度整備金融サービス仲介業の創設送金サービス業の規制の柔構造化のための法改正、とずらっと書いてくださっています。

上記の制度設備について、日本の金融市場が確実に進歩したという素晴らしい制度設備もあれば、何らかの妥協があったのかなぁと思えるような制度設備もあるかもしれません。しかし、金融庁はめちゃ賢い人達がしっかりと改革を進めてきた印象が有ります。

 

私が気になったのは、「金融サービス仲介業の創設」についてです。

これには、下記の引用のようなことが背景にあります。

現行規制の下、銀行・証券・保険すべての金融分野のサービスをワンストップで利用者に提供する仲介業者は、わずか5社にすぎない(2019年12月末時点)。こうしたことの背景の一つとして、現状、各分野のサービスを仲介しようとする場合、それぞれ、銀行法における銀行代理業者、金融商品取引法における金融商品仲介業者、保険業法における保険募集人または保険仲立人という業種ごとの許可・登録を要する点があると考えられる。

このような状況を変えるために、金融サービス仲介業が創設され、異業種も参入できるような体制を作るということになります。

金融サービス仲介業を行う上では、結構厳しいハードルや見返りの条件が設けられているようです。例えば、トラブルについての損害賠償責任は仲介先の金融機関ではなく、仲介している業者が行うこととなることや、デリバティブ取引のような高度と思われるものは除外されることや、仲介を利用する人の財産の受け入れを禁止することや、保証金の供託義務があるといったものです。

既存の金融機関は戦々恐々なのでしょうか?「金融版「カカクコム」誕生に業界が怯える事情 2021年夏にも新金融仲介サービスが始まる」という東洋経済オンラインの記事では、それらの高いハードルは、金融サービス仲介業を行う業者と、仲介先の金融機関が対等になるために必要なことと書いてあります。

施行はもう少し先の話になりそうですが、今後の動向に注目したいと思います。

 

2本目は、論文「データ主導による非金融との境界領域をめぐる動向(桑津浩太郎氏)」です。

ビッグデータという言葉を毎日のように聞きますが、「世界のデータ量は年率40%を超える増加率」だそうです。

これまでは、データ親和性の高い金融の企業で活用されてきましたが、非金融の企業においてもデータがいろいろと活用されてきています。例えば、流通業の企業で与信に関する業務を展開したり、製造業では車の位置情報を用いたビジネスを展開したり、運輸業では無人小型バスの導入などが検討されたり、都市管理についてはテンセント都市ブレインと実名でデータ主導の例を挙げています。

 

ここで、気になるのは、「データサイエンティスト足りる?」という問題です。調べてみると、たくさんのデータサイエンティスト養成講座が出てきました。例えば、

東大データサイエンススクール
データサイエンティスト養成ブートキャンプ

などなど。これから就職する人は、必須のスキルとなる可能性もあるのではないかと思います。

 

3本目は、論文「ビッグデータ分析の金融実務への実装(宮川大介氏)」です。

本論文は、今月の4本の論文の中で、かなりグッときました。というのも、本論文の中でのビッグデータを用いた分析が最もお金のにおいがしたからでございます!

 

例えばこんな分析はどうですか?

①「企業の業種、所在地、財務情報、同業他社の状況、金融機関との取引の状況、販売先や仕入先情報など」から、「倒産、休廃業、被合併、解散」などの予測が出来る。

②様々な企業の財務諸表より、「ある企業のある年度のある勘定科目」のデータが異常だと検知できる。

③リース契約で利益を極大化できる利回りが提示できる。宿泊施設で利益を極大化できる価格を提示できる。

 

これらが、論文のタイトル通り、実務への実装が出来ちゃう感じで書かれています。(それぞれの例はアルゴリズムに関する特許が取得済みであったり、出願済みであったりするようです。)

既存の統計的モデルから一歩先に進みたいと感じていた人には大きなヒントとなる論文でもあると思いました。

 

4本目は、論文「プレミアム品購買データから読み解く消費者心理(伊藤健氏、田代大悟氏、饗場行洋氏)」です。

この論文は、「人はどんな時にプレミアムビールを飲み、どんな時に第三のビールを飲むのか?」といった問題に対して、データ化して答えを求め、その事実がどのように有用に使えるのかという問いかけを行うという、行動経済学的観点を持ったビッグデータ分析というものです。

今回の編集をなさった大庭昭彦氏が、データサイエンスによる分析手法が「学際的な位置にある手法」と表現されていらっしゃるのですが、まさに本論文は学際的な位置にある手法であるゆえに、研究結果や導き出した事実が幅広く応用できるという可能性を感じさせてくれました。

 

内容としては、14年の消費税増税時や、17年の酒税法改正時、19年の消費増税時の前後で、プレミアム品購買データがどう動いたかを見て、そのデータ以外のデータも利用しますが、消費者態度指数や他の景気指標、各種指標との相関分析を行っていくというものです。

こういったビッグデータ分析が指標に対して先行性を持っていると非常に有用になります。政策決定に役立てることが出来れば、ビッグデータ分析の活用事例として、世の中に好影響を与えることとなります。そんな期待を持つことが出来る論文でした。

 

最後に!

今月号は、「金融のデジタル化とデータサイエンス」という特集でした。先月の「人口減少・高齢化社会と金融市場」に引き続き、大注目の特集で興味深く読み進めることが出来ました。

今月も本記事をお読みいただきまして、ありがとうございました!

 

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