やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「再考・私的年金税制」という特集です。

「公的年金は制度として存続は出来るが、給付額の低下は免れない」という考えが多くの人の認識するところとなってきました。

公的年金の給付額減少をカバーし得るのは私的年金です。日本の私的年金制度はどうあるべきでしょうか?本特集で学んでいきたいと思います。

 

1本目の論文は「私的年金税制をめぐる論点(谷内陽一氏)」です。

1本目の論文らしく、押さえておきたい知識を学ぶことが出来ました。

私的年金税制は、①拠出時、②運用時、③給付時、という3つのタイミングで整理すべしということで、私もセミナーでそのように言っていますが、改めて押さえておくべきことだと思います。

3つのタイミングにおいて、課税されるか(Taxed)、非課税となるか(tax-Exempt)で大まかに分けます。拠出時のみに課税されるならばTaxed、tax-Exempt、tax-Exemptで「TEE」、給付時のみに課税されるならば「EET」といったようになります。

 

日本の私的年金税制での大きな問題は「特別法人税」です。この特別法人税は2023年3月末まで課税が停止(凍結)されているものではありますが、運用資産に対して課税されるという世界的に見てユニークなものです。2021年7月の証券アナリストジャーナルでも議論されていますが、完全廃止すべきものでしょう。

何でもかんでも非課税にすべきということではありませんが、「公平性・中立性を踏まえた私的年金税制の再構築が必要」という筆者の主張は間違いないでしょう。「特別法人税」の問題以外に、「拠出限度額」の設定のあり方、「共通の非課税限度枠」の設定のあり方、「給付時課税の徹底および年金・一時金の選択に係る中立性の確保」といった課題が提起されています。

 

日本の私的年金税制改革を実際に成し遂げるためには、①全体の青写真を作る、②ロードマップを作る、③国民の理解を得る、という3つが必要と思います。

①に関しては、本論文の谷内氏も詳しいですし、今月号の解題を書いていらっしゃる野村亜紀子氏もすごい詳しい(いつも参考にさせていただいています)ですし、完成し得るものだと思います。
②をどう描いていくかについては、①も含めてにはなりましょうが、識者の委員会というものを地道に続けることが必要でしょう。
③をどう展開するかについては、政治のトップの方が『日本の私的年金税制は、米国の私的年金税制を参考に改革します!』といった花火的なメッセージを叫んでも良いのではないでしょうか?

これ、本当に成し遂げていただきたいことです!下にあります動画版でも大いに主張させていただきました!

 

2本目の論文は「米国の私的年金税制(岡田功太氏、中村美江奈氏)」です。

人によって評価は違うでしょうが、米国の私的年金税制は成功してきたと言えるのではないでしょうか。日本は、米国の私的年金税制を見習うべきと私は考えています。そんな米国の私的年金税制について考えていきます。

1981年に職域DCである401kプランがスタートし、2006年に年金保護法によってDCが強化され、2019年には退職保障強化法が成立するなど、さらに改革が進行中です。そういった長年の施策の甲斐あって、2021年3月末での企業年金やIRAを含む退職資産の規模は35.4兆ドルという巨額になっているとのことです。この数字としての結果は成功の証であると評価できるでしょう。

一方、解題にありますが、日本の私的年金というのは規模が大きくないというデータ(対GDP比で28.3% vs OECD平均49.7%)があります。つまり、結果が出ていないのです。

 

米国の私的年金税制の良いところは、本論文の4章に3点あげられていて、それぞれ、「手厚い拠出枠と運用時非課税」、「キャッチアップ拠出の容認」、「RMDと給付時課税」となります。

「手厚い拠出枠と運用時非課税」は、データを見たらビックリしますが、拠出の上限が日本の10倍といったオーダーで違います。これは退職資産の規模にダイレクトに影響してきます。
「キャッチアップ拠出の容認」というのは、退職間近に追加的な拠出を容認するという制度です。拠出者のディシジョンの遅れをカバーしてくれます。
「RMDと給付時課税」というのは、ある年齢から一定の引き出しを義務付けることにより、給付時の所得課税を実行するという制度です。しっかり課税することで、公平性を担保し、政府財政に対しプラスに寄与します。

これに加えて、401kプランへの加入に際して、行動経済学で言うナッジの考え方を導入し、加入者が非加入の選択をしない限り加入する、拠出率が自動的に引き上げられていく、デフォルトファンドを設定することで資産が現預金で眠ってしまうことを防ぐといった仕組みを取り入れています。こちらも良いところです。

 

もう、これをマネさせてもらったらいいじゃないかと思うのですが・・・。3本目の論文に進みます。

 

3本目の論文は「英国の私的年金制度と税制(佐野邦明氏)」です。

「英国の公的年金制度は、1601年のエリザベス救貧法が起源とされており(中略)、1925年に拠出制の本格的な公的年金制度が施行された(中略)、1950年代に大企業を中心に給付建て職域年金制度の適用が進んだ」などと書いてあります。

本論文の内容とほぼ同じスライドが厚生労働省のサイトにありましたので、ご参考にしてください。

この論文から読み取れることは、英国の私的年金制度と税制はめちゃくちゃややこしいということです。私の読解力の無さからか、読んでいて何度も迷子になり、舟をこぐこと数回、読破することは叶いませんでした。(笑)

 

代わりに、イギリス政府のサイトを読みました。

2016年4月6日より前にState Pensionの年齢に達した場合は、古いルールに基づくState Pensionをもらうこと、
そうでない場合(1951年4月6日以降に生まれた男性、1953年4月6日以降に生まれた女性)は、新しいルールに基づくState Pensionをもらうこと、
となっていて、新しい規則というのは、かなり単純化しているようでした。

古いルールから新しいルールに移行するときには、いろいろな意見があったでしょう。
公平性や中立性をどう担保するのか、実務的な障害が数多くあったのではないでしょうか?
障害をどう乗り越えてきたのか?ここは日本が学べるポイントだと思います。

ということで、日本の私的年金制度と税制を改革するためのお手本は、イギリスの新ルール制定にあるでしょう。
1本目の論文の最後で挙げた「②ロードマップを作る」ことに繋がりますが、識者の委員会のみなさま、イギリスの年金改革の道筋を参考にしてみてはいかがでしょうか!

 

4本目の論文は「カナダの私的年金と公平性のあり方(藤澤陽介氏)」です。

1本目の論文に「主要諸外国の私的年金税制の概要」という図表があって、OECD Economic Studies No.39にあるYoo,K.-Y. and A. de Serres[2004] “Tax Treatment of Private pension Savings in OECD Countries”という論文と、OECD[2015]の “Stocktaking of the tax treatment of funded private pension plans in OECD and EU countries”という論文から引用されているので、それらの論文を見ると色々分かりそうですが、この論文はカナダについて詳しく書かれています。

カナダの私的年金の良いところは題目にもありますが「公平性」で、特に「RRSP(個人型DCに相当するもの)のコントリビューションルーム」という税制上の優遇措置を管理する(非課税拠出額を把握できる)ものが素晴らしいです。公平性を実現し、さらにこのおかげで特定の年に利用しなかったコントリビューションルームを繰り越すことが可能になっているなど、利便性をも高めているように見えました。

1本目の論文の最後で挙げた「①全体の青写真を作る」際に参考となる年金制度だと思いました。

 

最後に

というわけで、今月号の証券アナリストジャーナルは、「再考・私的年金税制」という特集でした。いかがだったでしょうか?

「公的年金は制度として存続は出来るが、給付額の低下は免れない」
「ならば、私的年金でカバーしていこう!」

上記のような考え方が前向きに出来るように、日本の私的年金制度を改革していかなければいけません。

 

資産運用での利益や配当への税率を上げるというアイディアも考慮すべきものでしょうが、それは大問題ではなく、中問題か小問題だと思います。
というのも、その施策で全体のパイは増えることはおそらく無くて、逆に資産効果の剥落でマイナスの影響が大きいでしょう。
大問題は、眠っている現預金を呼び起こすことではないでしょうか。

マネタリーベースに信用乗数を掛けてマネーサプライが計算されて・・・なんて言ってもマネーサプライなんて増えやしないわけです。
実際に、お金を使ってもらわないといけないわけで、その一つの使い途として、資産運用(=投資)を如何にしてもらえるかということを考えねばいかんのではないでしょうか。
これは、私的年金の問題だけではありません。今後の日本のマネー経済が明るいものとなるか暗いものとなるかを分ける大問題です。

 

知らんけど。

 

動画版も作りました。おもろいものを目指しました。