やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『インパクト投資』という特集です。

ここ最近のジャーナルでは、「インパクト投資」に関する特集が数多く組まれていて、去年だけでも、2月号、9月号、11月号、12月号にインパクト投資に関連する特集がありました。

一番下に、「参考記事へのリンク」として載せておきます!

 

ちなみに、私のインパクト投資の理解は以下のような感じです。
①資産運用が始まった時に生まれた、リターンのみに着目する「資産運用1.0」
②リターンの変動幅(=リスク)に対する理解が深まる中で、リスクとリターンの関係性に注目する「資産運用2.0」
これは、ポートフォリオ理論などで一旦の完成を見たと思っていますが、ここ数十年で全盛を極めました。
③地球資源の枯渇などが懸念され、持続可能性を鑑みる中で、リスク、リターン、インパクトの3軸で考える「資産運用3.0」
この「資産運用3.0」が「インパクト投資」であり、急速に広がっています。

 

今月号ですが、インパクト投資に関する4本の論文が載っています。一読しましたが、良質な論文が揃っていました。
編集をしてくださった日本証券アナリスト協会の伊藤敬介さん、ありがとうございます!
それでは、1本ずつ感想を書いていきたいと思います。

 

1本目の論文は『インパクト投資の意義と課題─今、金融による価値創造が試されている─(安間匡明氏)』です。

インパクト投資に携わる人は必読!と言えるくらいの、12ページという紙幅で出来る限りの内容を分かりやすく詰め込んだ、非常に為になる論文でした。

 

はじめに、日本における「インパクト投資」というワードの広がりの歴史が紹介されます。2020年8月に日経新聞の経済ナレッジバンクというところに「インパクト投資」という言葉が追加されたそうです。
海外では、2007年にロックフェラー財団が主催した会議で初めて使われたそうです。

第2章は「インパクト投資とは何か」というタイトルになっていて、Global Impact Investing Network(GIIN)の定義が書かれています。

「インパクト投資とは、ファイナンシャルリターンとともに、社会・環境に関してポジティブで計測可能なインパクトを創出する意図をもって行われる投資である」

「これ、試験に出ます!」レベルで大事な文章です!

次いで、「インパクトとは、経済活動が環境・社会に与える影響(変化)である」とインパクトに関する説明も出てきます。

インパクト投資の種類としては、
①未公開企業向け投資
②上場企業株式を対象として行われるファンド投資
③融資を通じたもの(ポジティブインパクトファイナンス、サステナビリティリンクローン)
④サステナビリティリンクボンドと呼ばれる債券
の4つを挙げています。
様々なインパクト投資がありますし、あってしかるべきと言うことです!

その後は、日本・海外のインパクト投資の状況、国内におけるインパクト投資の議論や進捗状況が紹介されています。まるっとインパクト投資に関する理解を深めることが出来ました。

 

2本目の論文は『世界で広がるインパクト投資の新潮流(アマンダ・オトゥール氏)』です。

上場株式におけるインパクト投資について紹介する論文です。

 

リスク・リターンの2軸の投資に比べて、リスク・リターン・インパクトの3軸での投資(=インパクト投資)で難しいのが、インパクトの計測となりますが、本論文では、「インパクト投資分析の枠組み」として、著者の在籍するアクサ・インベスト・マネジャーズの例が紹介されています。

「インパクト投資分析の枠組み」として、「志向性(Intentionality)」、「重大性(Materiality)」、「付加性(Additionality)」、「負の外部性(Negative Externalities)」、「測定可能性(Measurability)」の5つの柱があります。
一読しただけで分析できるようになるほど甘くは無いのですが(笑)、対象企業について考えるときのテーマとして持っておくと、闇雲に分析をするより格段に質が上がりそうです。

 

この他、インパクト投資対象企業についてや、インパクト投資が財務リターンと長期的成長の両方を追求できることなどが書かれています。

 

3本目の論文は『ベンチャー企業へのインパクト投資の実際(黄春梅氏)』です。

ベンチャー企業へのインパクト投資に焦点を当てている論文です。著者である黄氏の所属する新生企業投資、新生インパクト投資における、インパクト投資ファンドの設計インパクト投資の投資検討プロセスについて、論文を通じて共有してくださっています。

 

まず、インパクト投資ファンドの設計ですが、「セオリー・オブ・チェンジ(Theory of Change)」という言葉を覚えておきたいところです。
①投資活動を通じて解決したい社会課題
②その課題に対しどのようなアプローチを取るのか
③その活動がどのように社会を変えていくのか

この3ステップを言語化、図示したものとのことです。

ここで、投資の条件や投資リターンのことが気になりますが、書いていただいています。
1社あたり1~4億円の投資金額、投資期間は3~5年、内部収益率(IRR)は15~25%を目指すとありました。

 

そして、インパクト投資の投資検討プロセスですが、
①案件発掘(ソーシング)
②案件の精査(デューデリジェンス)
③投資実行可否の判断

という3ステップとなっています。こちらは一般的なものだと思います。

著者はその3つの中で、「案件発掘(ソーシング)が大事だ」と主張します。その手法には、ネットワークを活用、メディア露出、業界マッピングといったものがありますが、「業界マッピング」という投資対象事業領域ごとの業界調査etcが最も重要で有効な案件発掘方法なんだそうです。愚直な感じがして、ちょっと意外でした。

また、デューデリジェンスの中で、投資候補先と一緒にインパクト評価モデルやロジックモデルを作成するそうです。投資実行前からハンズオンしているイメージで、こちらも意外でした。

総合的に、とても丁寧なプロセスを経て、投資実行可否の判断を行っていることが分かりました。

 

終盤に、「インパクトIPO」という新規株式公開の理想について書かれていました。
イグジットしたら終わりということでなく、IPOしてからも、インパクトの追求やインパクト測定マネジメントが出来て欲しいというもので、投資の理念のようなものを強く感じました。

 

4本目の論文は『上場株式におけるインパクト投資とインパクト志向(林寿和氏)』です。

2本目の論文に続き、上場株式におけるインパクト投資の話です。

 

内容が広範なものでしたので、要約するのが難しいですが、思ったこととしては、
「上場株式におけるインパクト投資は、ネガティブインパクトの低減が大事」
「新ビジネスにおけるインパクト投資は、ポジティブインパクトの創出が大事」

ということです。

上場株式への投資は、これまでリスクとリターンの2軸を投資対象の判断軸として、リターンの向上や、リターン÷リスクの向上に努めてきました。
その中で、インパクトがマイナスになっていることもあったかもしれません。
そういった株式は、昔でこそ投資の対象となり得ましたが、今では投資の対象から外れていく流れです。
今、投資家が出来ることとしては、2軸の投資で考えてきたことを反省する意味でも、
「対話におけるネガティブインパクトの低減の提案」や「ダイベストメント」があるのかなと思いました。

これは、裏を返せば、未上場株式や新しいビジネスへの投資に対しては、未来志向で、「ポジティブインパクトの創出を追求する」ということになるのではないでしょうか。
リスク・リターン・インパクトの3軸で投資対象を選別していくことは、もはや当たり前として考えて良い時代です!

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『インパクト投資』という特集でした。いかがだったでしょうか?

私は、これまでもインパクト投資について、いろいろと文献を読んだり、考えを深めてきたと思っていますが、今回の特集で、さらに知見が深まりました。
特集のタイトルがど真ん中の「インパクト投資」という名前になったことの証左かもしれませんが、「今月号はインパクト投資の決定版」という感じでした。

この証券アナリストジャーナル、残念なことに先月号から電子化されてしまったので、こんな優良な情報なのに、メルカリで雑誌を買って読むことが出来ません!
日本証券アナリスト協会の検定会員以外でも電子版を買えるのかは分かりませんが、是非手に入れて読んでいただけたらと思っています。

 

ということで、今月号も最後までご覧いただきまして、ありがとうございました!

(動画版はこちらのサイトにアップしますが、もう少々お待ちいただけたらと思います。)

 

弊ブログの参考記事へのリンクです・・・

証券アナリストジャーナル2021年2月号(サステナブルファイナンス – 特集)を読んで

証券アナリストジャーナル2021年9月号(サステナブル社会における資産運用業のあり方ー第12回SAAJ国際セミナーよりー – 特集)を読んで

証券アナリストジャーナル2021年11月号(ESG情報開示とその利活用 – 特集)を読んで

証券アナリストジャーナル2021年12月号(カーボンニュートラル時代における資産運用 – 特集)を読んで