やすべえです。証券アナリストジャーナル、今月の特集は、「ネットゼロカーボン社会に向けた資産運用業のあり方ー第13回SAAJ国際セミナーよりー」です。
2050年にネットゼロカーボンを目指している、つまり、二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを目指している中で、資産運用業はどうあるべきなのか?を議論しています。
昨年のSAAJ国際セミナーでは、「サステナブル社会における資産運用業のあり方」というテーマでした。
2年連続で同じようなテーマで議論しているということで、間違いなく注力すべきテーマなのでしょう。それでは、見ていきましょう!
証券アナリストジャーナル2021年9月号(サステナブル社会における資産運用業のあり方ー第12回SAAJ国際セミナーよりー – 特集)を読んで
第13回SAAJ国際セミナー、オンライン中心の開催になり、はや3年目!
ラインナップは、第1部は講演として、中島淳一氏(金融庁長官)。
第2部はVTRメッセージとして、アン・リチャーズ氏(フィデリティ・インターナショナル最高経営責任者)、
サンドロ・ピエリ氏(BNPパリバ・アセットマネジメント最高経営責任者)、
田代桂子氏(大和証券グループ本社取締役兼執行役副社長)。
第3部はパネルディスカッションで、渋澤健氏(コモンズ投信取締役会長)、
河合若葉氏(野村アセットマネジメント責任投資調査部シニアESGスペシャリスト)、
神津多可思氏(日本証券アナリスト協会専務理事、コーディネータとして)
が登場しています。
第1部:講演 中島淳一氏(金融庁長官)
「サステナブルファイナンスと金融資本市場」というお題で、サステナブルファイナンスをめぐる国際的な動き、サステナブルファイナンスの取り組みについて、分かりやすく述べられています。
サステナブルファイナンスをめぐる国際的な動きとしては、2021年のG20首脳会合で公表された「G20サステナブルファイナンス・ロードマップ」、COP26で設けられた「ファイナンスデー」についての言及がありました。
加えて、IFRS財団、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)、GFANZ(ネットゼロのためのグラスゴー金融連動)の動きについてもコメントがあり、知らない人には大事な知識になり、知っている人は復習になる有益な講演スタートとなっています。
サステナブルファイナンスの取り組みについては、多岐にわたるので各論的ですが、コンパクトに網羅してくださっています。
①「企業情報開示の充実」という観点から、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、人的資本投資といった非財務情報開示の充実について、さらに国際的な動きである、IFRS財団、ISSBの動向に対応していること
②「市場機能の発揮」という観点から、ESG関連債(グリーンボンドなど)に関する情報プラットフォームの立ち上げ、ESG評価やデータ提供についての環境整備、ESG関連ファンドの継続的監視と改善、ソーシャルボンドについての環境整備を行っていること
③「金融機関の機能発揮」という観点から、投融資先支援や気候変動リスクの管理に関するガイダンス策定を行っていること
以上の施策についてが分かりました。
「2050年」というしっかりとした「時間軸」がありつつも、2050年に到達すべき「目的地」が不確実である中で、金融庁の行っていることは非常に合理的で素晴らしいと思うところです。
第2部:VTRメッセージ アン・リチャーズ氏(フィデリティ・インターナショナル最高経営責任者)、サンドロ・ピエリ氏(BNPパリバ・アセットマネジメント最高経営責任者)、田代桂子氏(大和証券グループ本社取締役兼執行役副社長)
ウクライナ情勢など、世界が平和の配当を享受できない世の中になってきているのを見ていて、「2050年ネットゼロカーボン社会」なんて言っている場合でない気がしています。
ということで、気づけば少し否定的な視点から読んでいました。
『2050年までにゼロネットカーボン社会を実現するという目標は達成可能』
『資産運用会社が持っているもっとも強力なツールはエンゲージメント(建設的な対話)である』
上記のような意見は本当のところどうなのか?と考えました。
資産運用会社の影響力が及ぶ「カネ」には限界があるし、二酸化炭素を排出する石炭・石油・天然ガスなどを資産運用会社が全てコントロールすることは絶対に不可能なわけで、さらに資産運用会社の行うエンゲージメントが(合っているか間違っているか分からない)世論の押し付けになっていたりするのではないかと。
そして、昨今行われている、GHG(温室効果ガス)排出量を削減するといったアプローチは、本質的ではないと感じています。
利権も生まれていますし、アピールプレーも盛んに行われています。何より、施策を行ってもGHG排出量が減らないという「暖簾に腕押し」感が否めません。
ここで単純な私なりの結論ですが、人の暮らし(衣食住)において、使い捨てを極力しないことが最も有効ではないでしょうか。
多くの企業にとって頭の痛い話ですが、「モノをたくさん買う/売る」ことで地球を破壊していることを認識しなければいけません。
「ドーナツ経済」や「コミュニティ資本主義」といったアプローチが最善解なのではないかと考える今日この頃です。
第3部:パネルディスカッション 渋澤健氏(コモンズ投信取締役会長)、河合若葉氏(野村アセットマネジメント責任投資調査部シニアESGスペシャリスト)、神津多可思氏(日本証券アナリスト協会専務理事、コーディネータとして)
渋澤さんが岸田首相のグランドビジョンにおける「外部不経済を是正する」ということに着目していて、全くその通りだと思いました。
いわゆる、売り手よし、買い手よし、世間よし、という「三方よし」の考え方でもあり、昨年のセミナーでも言っていた「社会的インパクト」の計測という考え方でもあります。
これまでの資産運用の世界では、「ハイリスク、ハイリターン」とか「ローリスク、ローリターン」といったふうに2軸で考えていたでしょう。
しかし、これからの資産運用の世界では「ハイリスク、ハイリターン、マイナスインパクトだから投資対象外」とか、「ローリスク、ローリターン、プラスインパクトだから投資対象とする」といった考え方になってくるのだということです。
上記の引用は昨年のセミナーについて書いたものです。
1年経っているのに、同じ話をしている気がするのは私だけでしょうか!?
去年は『インパクト投資のムーブメントがすぐそこまで来ている』と感じて、心が震えたのですが、この1年で特別な進歩は無かったということになります。
やはり、アプローチの方法が間違っているのかもしれません。。。
最後に
ネガティブなことを書いてしまいましたが、登壇された方々がネガティブなわけではありません。
登壇された方は、ネットゼロカーボン社会に向けた資産運用業のあり方について、それぞれのお立場、与えられた環境の下でどうすべきかをしっかりと考えていらっしゃいます。
決して、登壇された方々に対して、負の意見や感情を持っているわけではありません。それだけは念押ししておきたく思います。
また、今回のテーマである「ネットゼロカーボン社会に向けた資産運用業のあり方」ですが、
マクロ的な視点で正しいことを行っているのか、ミクロ的な視点で正しいことを行っているのか、両面からしっかり見ていかないと見失ってしまう気がします。
まさに「VUCAの時代」の問題解決が求められています。
最後の最後ですが、去年のセミナーに呼応して作った動画を紹介します。
インパクト投資に関するインデックス投資信託の普及がインパクト投資普及のために大事なのではないか?という話をしています。
ぜひご覧いただけましたらと思います!では!
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