やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『有価証券報告書の定性情報』という特集です。
「定量的」な財務情報では無く、「定性的」な非財務情報、記述情報の重要性が叫ばれています。
なぜ、わざわざ分析が困難な「定性的」な非財務情報、記述情報が重要なのでしょうか?
「定量的」な財務情報の分析では、投資家にとって何かが不足しているのでしょうか?
「定性的」な非財務情報、記述情報が無いと、投資家は企業のほんとうの姿を見抜けないのでしょうか?
「定性的」な非財務情報、記述情報を企業に要求することによって、投資家は企業をもっと丸裸に分析したいのでしょうか?
投資家が情報を欲しがり過ぎてしまうと、上場会社はMBOなりして非上場会社になってしまう気もします。
しかし一方で、勿論ですが、株式という仕組みにおいて、投資家が上場会社についてより見えるようになることは重要なわけです。
横道にそれるようですが、「定量的」な財務情報と「定性的」な非財務情報、記述情報を統合して発行される報告書である「統合報告書」というものがあります。
「統合報告書」を発行している上場企業は大型株を中心に600社を超えてきました。
大型株投資家にとっては、「統合報告書」の開示がスタンダードとなってきた昨今です。
さぁ、今月のジャーナルでは、上述の素朴な疑問や、「定性的」な非財務情報、記述情報の重要性にどう答えてくれるでしょうか?
4本の論文を1本ずつ、読み進めてまいります!
1本目の論文は『有価証券報告書をめぐる定性情報開示の実態と今後の方向性(野田健太郎氏)』です。
まずは、「有価証券報告書の定性情報開示の状況」を書いてくださっています。
2004年3月期の制度改正で「財政状態及び経営成績の分析」、「事業等のリスク」、「コーポレート・ガバナンスの状況」が新設されました。
2018年から2019年にかけての金融庁による「記述情報の開示に関する原則」によって、記述内容の一層の拡充が図られました。
2022年6月には「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告ー中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けてー」が公表されました。
上記のように、3ステップで定性情報開示のレベルアップが図られていることが分かりました。
次に、「有価証券報告書の定性情報開示に関する論点」として、4点挙げられています。
①テキストデータ分析の高度化による定性情報価値の増加
②有用な情報を求めるステークホルダーの要請
③価値関連性との関係
④統合報告書などの定性情報との連携
簡潔で効果的にまとめてあり、非常に参考になりました。
④を読んでいて、一点思ったのは、ステークホルダーは投資家だけでは無いので、有価証券報告書よりも統合報告書の方が開示の媒体として効果が高いのではないかということです。
有価証券報告書でのルールが開示の内容(質や量)を企業に合ったフレキシブルなものにすることを阻んでいるのではないかと思った次第です。
2本目の論文は『有価証券報告書における定性情報が投資家の意思決定に与える影響─オンラインサーベイ実験による検証─(廣瀬喜貴氏)』です。
個人投資家に焦点を当て、「読みやすい会計情報」と「読みにくい会計情報」では、投資家の行動がどう変わるのか?ということを実験している大変興味深い論文です。
実験のデザインは、
①読みやすいグッドニュース
②読みにくいグッドニュース
③読みやすいバッドニュース
④読みにくいバッドニュース
の4種類の情報を与えて、企業価値の評価がどう変わるかを測定するものです。
結果は、①読みやすいグッドニュースと、②読みにくいグッドニュースでは、あまり違いは無かったのですが、
③読みやすいバッドニュースと、④読みにくいバッドニュースでは、読みやすい方が企業価値が高いと評価されているとなっています。
少なくとも日本では、「バッドニュースこそ読みやすく伝えるべき」というのが本論文の結論となります。
3本目の論文は『MD&A情報における「トピック」の分析(中野貴之氏 / 五十嵐未来氏 / 湯浅大地氏)』です。
マニア向けな感じがしますが、「MD&A」は「Management Discussion & Analysis」の略で、日本語にすると、『「経営成績等の分析」(第2【事業の状況】)』というものになります。その情報における「トピック」を分析したという論文になります。
トピックを以下の4つに大別しています。
①市況・受注・販売状況
②経営戦略等
③事業・セグメント別業績説明
④財務諸表作成上の見積・基礎等説明
結論だけ言ってしまうと、昨今の3ステップでの定性情報開示のレベルアップ(1本目の論文参照)によって、②経営戦略等と、④財務諸表作成上の見積・基礎等説明の記述が増えていたそうです。
②の中身としては「中期経営計画等」、④の中身としては「財務諸表作成用の見積判断の説明」が記述上昇の主因だったそうです。
「そ、そうなんですね・・・」としか感想が言えない私でございます。笑
4本目の論文は『企業の情報開示と株式の市場流動性─記述定性情報のケース─(田中研人氏 / 木村遥介氏 / 中田和秀氏 / 井上光太郎氏)』です。
企業の記述定性情報開示と株式の市場流動性との関係性を調べたというのが本論文です。
大規模な分析をされていて、スゴいなと感じました。分析から分かった結論も色々とあり、こちらもスゴいなと感じました。
その中で、「監査法人が4大監査法人である企業において、開示が相対的に大きく改善した」とありました。
「直感的にそうなんだろな・・・」と思うところでもありますし、
4大監査法人でない企業は、小さめの企業が多いので、情報開示にマンパワーが割きにくいのだろうなとも想定出来ます。
そこから、時価総額や従業員数といったファクターではどう影響が出るのか分析したいなぁと思いました。どうでしょう?
論文のフォーマットが、「はじめに」、「先行研究」、「サンプルとデータ」、「仮説」、「分析」、「結論」+参考文献となっていて、お手本のように分かりやすい流れになっています。
私のような「論文読む専」にとって有難いですし、論文を書く方にとっても参考になる流れだなと思いました。
最後に
ということで、今月号の証券アナリストジャーナルは、『有価証券報告書の定性情報』という特集でした。いかがだったでしょうか?
1本目の論文のところでも書きましたが、ステークホルダーは投資家だけでは無いので、有価証券報告書よりも統合報告書の方が開示の媒体として効果が高いのではないかというモヤモヤが残りました。
有価証券報告書で「ルールに則った」非財務情報を書いてもらうという強制できるメリットと、統合報告書でマンパワーとお金はかかるものの「伝えたい/伝わる」非財務情報を書いてもらうメリットと、どちらが良いものか思案しながら読んだ4本の論文でした。
今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!
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