2000万円不足このシリーズも第5回目となりました。これまで読んでくださった方、ありがとうございます。かなり知識が増えてきたのではないでしょうか?

 

今回は、「金融資産の保有状況」、「金融環境に対する意識」の2節についてです。また、今回で、「現状整理」の章を読み終えることになります!一旦、お疲れさまです!と言いたいところです。

 

<1章「現状整理(高齢社会を取り巻く環境変化)」(3)金融資産の保有状況>

「退職金給付の状況」と同じように、「金融資産の保有状況」にもかなりばらつきがあり、平均値や中央値を見ることにあまり意味はないと言えます。

ただ、全体の傾向は見ておいたほうが良いので、書いてあることを確認していきます。

 

まずは、「若年層よりもシニア層の方が全体に占める金融資産の保有割合が高く、この傾向は今後も続く見込みである」とあります。

この事実自体は当たり前と考えますが、「世帯主の年齢階級別貯蓄・負債現在高、負債保有世帯の割合」についての、総務省「全国消費実態調査」国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数将来推計(全国)」のデータから作られたグラフを見てみますと、年齢階級別で大きな差が生じていることがあらわになります。数字だけを取り上げますと、下図のようになります。

 

ここで、前回取り上げた議論が再び取り上げられます。

「(2)収入・支出の状況」における、「高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる」、そして、「20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取崩しが必要になる」と書かれています。

またか!という感じですが、平均の話をしてしまえば、60歳以上の方は上記の表より、貯蓄現在高と負債現在高の差がかなりプラスになっていますから、取崩しは必要になるが、取崩しが可能ということになります。

 

問題はもっと若い年齢層の方にあるでしょう。大事なことは、貯蓄現在高と負債現在高の差がトントンかマイナスになっている50歳未満の世代が、来るべき老後の生活に向けて、準備をしていかなければいけないということと思います。

退職金があるのかどうかによっても大きく変わってきます。前回も大事な一文として取り上げましたが、

「自身の退職金の見込みや動向については、早い段階からよく確認しておく必要がある」

わけですので、ぜひ確認して、現状把握をと思います。

 

 

その準備に関してですが、米国において、401(k)プラン等の制度的な後押しもあって、資産形成に取り組んでいることが紹介された後、「わが国でも後述するつみたてNISAやiDeCo等が整備され、個人が長期の資産形成を行うに際して制度的な環境が整いつつある」と記されます。

若者の皆さん、NISAやiDeCo等の制度的な環境を整備したので、長期の資産形成をして、来るべき老後の生活に向けて、準備してくださいと直接的には書けないのかもしれませんが、そういうことを言っていると読み取れます。

 

 

<1章「現状整理(高齢社会を取り巻く環境変化)」(4)金融環境に対する意識>

第1章における最後の論点になります。意識調査のデータが並びますが、こういったデータを見ることで、客観的に自分を見ることが出来ます。こちらも、一つずつ読み進めていくことにします。

 

まず、内閣府「老後の生活設計と公的年金に関する世論調査」のデータより、「老後の生活設計を考えたことの有無」という漠然とした(?)調査結果からはじまります。

全体の67.8%が「老後の生活設計を考えたことがある」と回答しており、その理由として「老後の生活が不安だから」という回答を挙げています。

この報告書では取り上げられていませんが、元の調査では、大都市と町村を比べると大都市の人の方が「老後の生活設計を考えたことがある」割合が高く、男女を比べると女性の方が「老後の生活設計を考えたことがある」割合が高くなっているそうです。

 

関連するアンケート調査として、メットライフ生命「『老後を変える』全国47都道府県大調査」のデータより、「年代別の老後不安」、「世代別の老後への備え」についての調査結果の表が出てきます。

「年代別の老後不安」の調査結果は、30代から50代においては、「お金」が老後不安の最大の関心事で、次いで「健康」、「認知症」と続きます。60代、70代においては、「お金」は4番目の関心事で、「健康」、「認知症」、「自らの介護」がトップ3となっています。(不安をランキングで並べたものなので、不安が無い人の意見は入っていないことに注意が必要です。)

「世代別の老後への備え」の調査結果は、現在の金融資産額と、老後の備えとして十分な金融資産と自ら想定している金額と、その差額が掲示され、差額はマイナス2000万程度という調査結果になっています。(十分な金融資産はいくらですか?と聞かれて、大きめの数字を答えるのは当然なので、納得の結果かと思います。)

 

次に、不安への対処に関する調査結果として、日本FP協会「暮らしとお金に関する調査」のデータより、「資産寿命を伸ばすために必要だと思うこと」の図表が挙げられます。

上位の意見から書いていきますと順に、「現役で働く期間を延ばす」、「生活費の節約を心がける」、「健康に気を配り医療費を削減する」、「若いうちから少しずつ資産形成に取り組む」、「共働きや副業で収入を増やす」、「手持ちの金融資産を運用する」というように、直接的に資産を増やす(減らさない)ためのアイディアが並び、その後に、「金融や資産形成の知識を身につける」、「ファイナンシャル・プランナーなど専門家にアドバイスをもらう」といったような間接的な行為が並びます。

それぞれ、実行可能で、不安が解消する方向にあるアイティアたちだと思います。

 

 

具体的なアイディアは数々出てきますが、家計を改善するための方法は、まとめてしまいますと、

① 収入を増やす

② 支出を減らす

③ 余剰資金を運用して増やす

の3つとなりますので、それぞれの方法で無理をせずに出来そうなことからやってみるというのが良いと私は思っています。

 

例として、②の「支出を減らす」でいえば、有料放送の月契約の解除、缶コーヒーを飲む習慣を止める、禁煙、といった出来そうなアイディアに対して、年間の削減額を計算して、やってみるか決めるといったプロセスがおススメです。

③の「余剰資金を運用して増やす」でいえば、少額でも良いので、はじめてみるのがおススメです。やってみて気づくことは意外に多いものです。

 

最後には、「老後に向け準備したい(した)公的年金以外の資産」というグラフが、内閣府「老後の生活設計と公的年金に関する世論調査」のデータより示され、『「証券投資(株式や債券、投資信託など)」を挙げたものは2割以下に留まり、実際に投資を行っている割合はこれよりもさらに低い水準になっていることが予想され、意識と行動に乖離があることが窺える』と書かれています。

 

 

<1章「現状整理(高齢社会を取り巻く環境変化)」を読み終えて・・・>

様々なデータ・事実が出てきました。「へー、そうなんだ」、「なるほどね」と見ていくだけでも、それなりに価値があると思います。こういったデータ・事実を見ておくことで、漠然と感じていた不安が解消しやすくなりますし、未解決の問題、未知の問題に対して、確からしい答えに近づくことが出来ます。

 

すでに5回の連載となってしまいました。お読みいただきまして、ありがとうございます!ここまでの連載で「高齢社会における資産形成・管理」報告書に関心を持ち、または、今後の「資産形成・管理」に興味を持ち、実際に行動に移す方がいらっしゃれば、書いてきました甲斐があります。嬉しいです。

 

 

 

次回からは、2章「基本的な視点及び考え方」という、この報告書内での、確からしい答え、識者の意見が出てきます。「5万円」、「2,000万円」というパワーワードが再び登場します・・・。

第1回のページに目次的なものを作っております。