やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは、「デジタル化時代の新たな資産運用ビジネス」をテーマとして行われた第10回SAAJ国際セミナーの特集です。今月も書き留めたいことを徒然なるままに書いていきます。

SAAJとは、日本証券アナリスト協会のことで、「The Securities Analysts Association of Japan」の頭文字をとったものです。大規模なセミナーとして、このSAAJ国際セミナーを4月に、日本証券アナリスト大会を10月にやっています。今回は、4月に行われたSAAJ国際セミナーでの基調講演や講演の文字起こしを読んでいきます。

 

 

1本目は、基調講演、「日本の資産運用業界への期待(井藤英樹氏)」です。

井藤氏は金融庁の方で、この基調講演では金融行政の重点施策について説明してくださいます。7つの項目というものがあり、①デジタライゼーションの加速的な進展への対応、②家計の安定的な資産形成の推進、③活力ある資本市場の実現と市場の公正性・透明性の確保、④金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保、⑤顧客の信頼感・安心感の確保~金融機関の行為・規律に関する課題~、⑥世界共通の課題の解決への貢献及び当局間のネットワーク・協力の強化、⑦金融当局・金融行政運営の改革、となっています。

その中で、①デジタライゼーションの加速的な進展への対応については、11の細かい施策について言及するなど、詳しく説明がありました。喫緊の課題として尽力していることが垣間見えました。

 

強いメッセージとしては、②家計の安定的な資産形成の推進、③活力ある資本市場の実現と市場の公正性・透明性の確保において、「過去においては、高い手数料収入が見込める売れ筋商品の組成が繰り返され、回転売買されていた実態もあり、」といった表現や、「リスク性商品の販売額を月次で見ると、現場では、期末の収益目標を意識したプッシュ型営業の可能性も見えてくる」といった表現がありました。

そこで、問題意識をしっかりと植え付け、顧客本位なのか、金融機関本位なのかを考えさせます。そもそも、「利益が相反するようなメカニズムやリスクを内包している」としっかりと確認し、「もし、情報格差を利用して、顧客の利益を蔑ろにするようなビジネスを行っているのであれば、顧客本位の業務運営が永続的なものだとはいえない」と釘を刺していきます。

 

後半には、金融機関の選択に関する顧客アンケート調査において、「金融機関の販売姿勢が一定程度良くなったという声は少なく、金融機関の取り組みが理解され浸透している状況ではないと思っている」と残念な現況に警鐘を鳴らしています。

 

 

2本目は、講演、「アクティブ運用会社としての進化とイノベーション(ニコラス・S・トゥルーマン氏)」です。

このお方は、ティー・ロー・プライスというアクティブ運用会社の方です。アクティブ運用会社として何が出来るのか、そして、ティー・ロー・プライスはどういったスタンスでイノベーションを行っているかということが紹介されます。

この講演録の序盤に「誰が老後資金を負担するのか」という話があり、「政府だろうか」、「勤務先の企業はどうだろうか」と問いかけ、マクロな視点からこれらの主体がこれまで通りのサポートを続けることは難しそうであるとし、「自分で何とかしなければならない」と主張していらっしゃいます。

 

 

3本目は、講演、「これからの投資信託の役割とは―投資文化の普及のために―(藤野英人氏)」です。

藤野氏は、ひふみ投信で有名な、レオス・キャピタルワークスという会社で代表取締役社長・最高投資責任者をされている方です。今回の講演は「これからの投資信託の役割とは」という大きなテーマでお話されていらっしゃいます。

先日、ひふみ投信の懇親会で生の声を聞いた時も思ったのですが、藤野さんはお話が大変面白いです。お話の流れがしっかりと組み立てられていて、オーディエンスとの距離感もいい塩梅で聞きやすいです。

今回のスピーチも、練られている感じで、3つのキーワードを効果的に使っていらっしゃる印象を受けました。

 

1つ目は、「おまけ」というワードです。投資信託はそのものが目的なのではなく、「投資信託を購入することによって安心感が得られるとか、老後の心配が少なくなるとか、もしくは子供を大学に行かせられるということ」が目的なのだということから発せられるワードです。

2つ目は、「タンス」というワードです。タンス預金が50兆円ほど眠っているという試算結果を紹介し、「投資信託業界は、タンス以上に付加価値があることを示さないといけない」と比較することによって主張し、日本の現預金比率の高さにも言及します。

3つ目は、「ポッキー」というワードです。『私が作りたかったのは「ポッキー」のように誰もが知っていて親しみを持っているファンドである』というように比喩を用いて、ひふみ投信への想いを語っていきます。

私の本文はスピーチの分析のようになってしまいましたが、内容は3つのワードと共に、しっかりと語られており、業界全体で業界のプレゼンスを高めていきたいという意気を感じました。

 

最後に!

全体を通して思ったのは、このセミナーに、総合証券やメガバンクのマネジメント層が出てきていないことについてです。昨年や一昨年のSAAJ国際セミナーにおいても出てきていないようです。

どういったことを考えているのだろうかと気になり、5つの総合証券のトップメッセージを見てみました。野村さんと大和さんは、収益目標をしっかりと掲げています。メガバンク系は中核証券会社というアピールをしています。しかしながら、特徴や具体性の乏しい、尖っていないメッセージであるからか、私にはあまり響きませんでした。その点、SBIさんは具体的で勢いを感じます。(良い悪いは別の話として、見て頂けたらと思います。)

野村さん:グループCEO永井浩二メッセージ

大和さん:社長ごあいさつ

日興さん:経営者メッセージ

みずほさん:みずほ証券社長メッセージ

三菱さん:ごあいさつ

SBIさん:トップマネジメントメッセージ

 

今回は以上となります。最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。

(この他、パネルディスカッションの文字起こしも載っていましたが、今回は割愛しました。)

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