証券アナリストジャーナル2月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは、「資産運用における為替管理」特集です。グローバル投資が進む中で、為替をどうコントロールしていくかが重要な問題になってきています。というわけで、書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。

解題の冒頭に証券アナリストの通信教育講座のテキストの記述が引用されています。
「国際証券投資における戦略アセット・アロケーションにおける最大の問題は長期的な通貨配分方針、すなわち戦略的通貨配分をどのように決定するかという事である。実は戦略的通貨配分において、ノーヘッジ、フルヘッジ、部分ヘッジといった方針のどれを採用するべきかについては様々な意見が存在している」とあります。「為替ヘッジ」の唯一解は今のところなくて、喧々諤々の議論が行われている最中で、今回は5つの論文が議論を展開します。

 

1本目の論文(機関投資家から見た為替管理の四半世紀と現状認識ー西川圭助氏)では、為替リスク管理の歴史が書かれています。為替リスクの管理は、ヘッジ無し、ヘッジ有り、部分ヘッジが主だった方法で、為替オーバーレイマネージという為替全体を見たヘッジをする一部を除けば、為替リスク管理において分散投資というリスク管理手法がとられていなかったとあります。

分散投資の利点について書いておきますと、たとえばA、B、C、Dという4つの商品の期待リターンが年率10%、リスクが年率10%だったとして、その4つの商品を4分の1ずつ保有したポートフォリオはリスクが年率8%になるというものです。つまり、1つの商品を保有するよりも複数の商品を保有する分散投資によってリスクが下がる(リターンは年率10%のままで変わらないので、リターン・リスク効率が上がる)というわけです。

為替市場に関する興味深い話も書いてありました。一つ目は、為替市場参加者の中には、マーケットのレベルなどではなく、実需で売買時期や売買量を決めている参加者がいるため、有価証券市場ほど割高・割安といった尺度が有効になっていないとの話です。結果として、通貨を分散投資して前述のリターン・リスク効率が上がるかどうかの効果測定が難しいと。

二つ目は、新興国通貨は先進国通貨に比べてリスクが大きいという「認識」があるが、ここ1~2年のデータで見ると、新興国通貨のリスクと先進国通貨のリスクは計算上ではほぼ同様のリスクであるという話です。1~2年のデータでは信頼できないかもしれませんが、もっと多種類の通貨を保有することによってリターン・リスク効率が上がるのかもしれません。

 

2本目の論文(資産運用における為替管理-為替ヘッジの再考-ー日下部義明氏、番場悠氏)は、何と言っても現実の実務の中で行われている「為替ヘッジ」について、もっと考えていこうという論文です。「為替ヘッジ」というのは「外国債券を保有するリスク」を減少されるために主に使われていますが、その説明が明快です。

「外国債券を保有するリスク」は「外国債券を現地通貨ベースで保有するリスク」と「現地通貨と円との為替リスク」に分けられますが、「現地通貨と円との為替リスク」が「外国債券を現地通貨ベースで保有するリスク」に比べてかなり大きいということです。「外国債券を保有するリスク」を取るつもりが「為替リスク」ばっかり取ってしまっているという状況を打破するために「為替ヘッジ」が行われてきました。

一方、「外国株式を保有するリスク」は「外国株式を現地通貨ベースで保有するリスク」と「現地通貨と円との為替リスク」に分けられますが、「現地通貨と円との為替リスク」は「外国株式を現地通貨ベースで保有するリスク」に比べてそんなに大きくないのです。そんな事実の中では、「外国株式を保有するリスク」や「国内株式を保有するリスク」は「為替ヘッジ」なんて考えずに、「分散投資」の考え方で前述の「リターン・リスク効率」を上昇させていこうという考えになっているんです。

その他、本論文では、為替ヘッジの実践論をいくつか提示してくれます。「アセットアロケーションにおける為替」では、外国資産の比率が低ければ為替ヘッジの効果は低いという分析が出てきたり、為替ヘッジの方法として比較的新しい「動的ダウンサイド管理」について詳しく述べてあります。この管理方法はポートフォリオインシュアランス的な考え方なので、マーケットがクラッシュしそうな時に一斉に同じような方向にヘッジしてしまい、結果的にクラッシュを引き起こしてしまうというジレンマ的な問題も抱えていると個人的には思っていますが、常時の管理方法としては大変優秀なものと思います。

 

3本目の論文(年金資産運用における為替リスク管理の考え方ー大浦裕一郎氏、喜多幸之助氏)は、終盤に出てくる「主要海外基金の為替ヘッジ方針」がかなり興味深いものでした。

米国のCalPERSという基金の為替ヘッジ方針は、以前行っていた為替ヘッジによってポートフォリオのリターン・リスク比率が有意に改善しなかったため今はノーヘッジと推測されるんだそうです。また、資源国通貨を持つカナダとオーストラリアの基金は、株式が世界的に上がるような局面では自国の通貨が上昇するのでノーヘッジの方が資産分散効果につながるとして、ヘッジしていないそうです。逆に、ニュージーランドの基金は、自国の短期金利が高いことを活用して為替ヘッジすることによるプレミアム獲得の効果が大きいので、ヘッジをしているそうです。

日本については言及がありませんが、少し考えてみましょう。世界的に株高になった場合は円安になりますし、株安になった場合は円高になりますから、その傾向が続く限りは為替ヘッジをしておいた方がリスク量が減るので為替ヘッジはアリとなりそうですが、日本は短期金利が低く、他の理由もあって為替ヘッジのコストが大きいですから、一長一短となりますでしょうか。いずれにしてもここで簡単に結論が出るような問題ではないですが、頭の体操的にもなりますし、少し書いてみました。。

 

4本目の論文(変貌する為替市場構造とポートフォリオにおける為替の影響-高まる為替管理ポリシーの重要性-ーロナルド・リーシング氏)は、2本目の論文で言及されました「外国債券を保有するリスク」は「現地通貨と円との為替リスク」が大部分を占めているという話が序盤にあり、いざ「為替ヘッジ」してみたものの、実際の外国債券の「評価益」と為替ヘッジの「実現損」が相殺できずに困ったなどという実務ベースでの苦労のお話もあり、読みやすい流れです。

後半に出てくる「金融購買力平価」という考え方が面白いので紹介しますと、世界の投資家は米ドル建てで投資をしているので、対ドルで通貨が下落すると割安と見て買いが入るという話です。日本で言えば円安になると日本株が買われるということになります。経験則としてわかってはいるものの、月次リターンの相関がかなり高く有意であることがデータと共に提供されます。

つまるところ、日本の投資家は外国株式を保有していなくても、円とドルのレートが自分のポートフォリオの損益に大きな影響を与えているということです。

 

というわけで、今月の論文は、為替ヘッジ含め、為替との付き合い方に関するものでした。こういった考え方を押さえた上で、「自分の保有資産をドルベースで見るべきか?」ですとか、「自分の保有資産をどの通貨で保有しておくべきか?」といった議論に昇華していくと大変意義深くなってくるのではと思います。