やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは、「資産運用業界の新潮流―より信頼される運用会社を目指して―」をテーマとして行われた第9回SAAJ国際セミナーの特集です。今月も書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。
SAAJとは、日本証券アナリスト協会のことで、「The Securities Analysts Association of Japan」の頭文字をとったものです。大規模なセミナーを年度に何度かやっており、このSAAJ国際セミナーもその一つです。今回は、「資産運用業界の新潮流―より信頼される運用会社を目指して―」をテーマとして講演やパネルディスカッションなどが行われました。
今回は講演録ですが、1つ目は基調講演「プライベートエクイティー―投資機会と課題― マーク・アンソン氏」から見ていきたいと思います。
内容としては、プライベートエクイティーの良さのアッピールという感じなのですが、なぜプライベートエクイティーのリターンが上場株式に投資するよりも高いかという問いに対して、非流動性プレミアムがあるからと言っています。それはたぶんその通りで、「流動性」、「リターン」、「リスク(リターンの不確実性のことです)」はじゃんけんの「グー」、「チョキ」、「パー」みたいな関係になっていて、「流動性」が高くて「リスク」が小さいと「リターン」は小さいとか、「流動性」が高いが「リスク」が大きいと「リターン」はまぁまぁ大きいとか、「流動性」が低くて「リスク」が大きいと「リターン」はより大きくなるとか、そういった関係性はあるのだと思います。(下記ご参考、私が1年くらい前に書いた記事です)
面白い指摘として、「イノベーションは景気循環とは関係なく起きている」というものがありました。1994年から2013年までで、どの年に創立された企業も、上場して大きな時価総額になっているというものです。Netscape、Google、LinkedIn、facebook、twitter、WhatsApp、snapchat、などと並んでいます。例えば、その中でLinkedInは2003年開設で、その時のマーケットは結構冷えていましたが、そういった景気循環とは関係なくイノベーションは起きていて、すごいベンチャー企業が産まれていますよということを言っています。
2つ目も基調講演となりますが、「日本の資産運用業界への期待 高橋則広氏」を見ていきます。
高橋則広氏はGPIFの理事長で、雲の上にいるような方ですが、基調講演として、GPIFが資産運用業界に期待していることとして、3点、①テクノロジー、②ESG、③アラインメント(連携)をお話してくださっています。
GPIFらしく、無難で総論的なことが述べられていますが、1つ知らなかったことが③アラインメント(連携)の中にありました。それは、「アクティブ運用については18年度から実績連動報酬の仕組みを取り入れ始めた」ということでした。もちろん、この件にかかわっている方は全員知っているようなことなのでしょうけれども、私は初耳でした。アクティブ運用をして超過収益率(ベンチマークに勝ったパーセンテージです、図表ではそのように出ていましたが、アルファのようなものかもしれません)に応じて成功報酬的なものが支払われるというものです。なかなか先進的な取り組みだと思いました。
3つ目は講演「世界経済情勢の見通し ロバート・B・ゼーリック氏」です。
ゼーリック氏は現在、アライアンス・バーンスタインの取締役会会長をしていらっしゃるそうですが、かつては2007年から2012年から世界銀行の総裁を務めていらっしゃいました。世界経済情勢に関して鋭い見方をお持ちの同氏ですが、今回の講演でずばり「世界経済情勢の見通し」というお題目で世界経済、米国経済、中国経済、日本経済について意見を述べていらっしゃいます。
かんたんに要約してしまいますと、「世界経済→総じて堅調、米国企業業績→かなり好調、中国経済に関しては特に言及無し、日本経済→政府による積極的な景気刺激策と世界的な景気回復は日本経済に恩恵をもたらしてきた」といった景気の判断をしています。
講演の途中で2つのリスクとして、「金融政策の正常化」と、「保護主義の台頭」を挙げています。ごもっともという感じでしょうか。長年続いた金融緩和が本当に終わるのか、そして昨今の不思議な経済現象ともいえる景気回復がインフレ率上昇につながらないという低インフレ問題について問題提起しています。保護主義に関しては、ゼーリック氏が前から考えていた実際に輸入関税をかけるような悪いシナリオが進んでいるという話ですが、この講演以降に起こっているNAFTAの交渉でのゴタゴタ感などはニュースの通りです。
4つ目は講演「市場環境の変質と資産運用業の在り方 西惠正氏」です。
西惠正氏はアセットマネジメントOneの前取締役社長として、アセットマネジメント会社が資産運用をどのように考えていくべきかというお話をしています。
AIが活用され、高度な分析が行われ、資産運用が変わってきていますが、分かり易くどう変わっているかを説明してくれます。従来のアルファが、「一定のルールに基づく投資による超過収益の獲得」というオルタナティブベータに置き換えられたというもので、例えばJPX400インデックスであれば、ROEや営業利益、時価総額といったファクターを使ってルールで運用することによって従来はアルファと捉えられていたことがオルタナティブベータに代替されているということです。本当のアルファはもっと高い次元のところにあるということで、定性的なことだったりするのでしょうが、昨今は定性的なものをどんどん定量化していく傾向がありますので、「アルファはいずこに?」という時代になっていくのでしょうか。行きつくところはCEOのスキルとか、ファンドマネージャーの人気とか、そういったところでしょうかねぇ。
そして、AIでの資産運用について言及しているのですが、ベンチマークに勝っているそうです。西氏は「AIは、人間と異なるタイプのファンドマネージャーに例えることができ」ると説明しています。
将棋や囲碁の世界ではAIはすでに棋士を超えてしまっていますが、資産運用の世界ではどうなのでしょうか。個人的には、AIが普及していくと、同じような考え方のAIが一斉にマーケット動かすフラッシュクラッシュのような事態が定常化して、フラッシュクラッシュを故意に起こさせるようなAIも登場して、フラッシュクラッシュが起こったら起こったで割安になった金融商品を拾おうとするイベントドリブン型のAIが出現してきて・・・。かなり魑魅魍魎の世界になると考えています。
というわけで、今月の証券アナリストジャーナルは講演録を読んだ感想になりました。来月もお楽しみに!
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