証券アナリストジャーナル8月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「AIの金融応用 – 基礎編」という特集です。気になったことや、書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。流行の言葉である「AI」や「ビックデータ」という言葉ですが、昨今、新聞などで見ない日の方が少ないのではないでしょうか?そんなホットな特集です。

 

まず、1本目の論文(機械学習とは何か?ー植野剛氏)から見ていきます。「AI」やその日本語訳である「人工知能」という言葉に馴染みの無い人にも、分かりやすく書かれています。

「人工知能」の研究の中で、要となっているのが「機械学習」です。文字通り、機械が学習するわけですが、「機械学習」とは何ぞや?というところからスタートしていきます。

植野さんは「機械学習」を「統計学」と比較しながら考えていきます。統計学はデータ解析を通して対象とする現象を理解することとなりますが、機械学習はデータ解析を通して高精度な予測をすることになります。似ているようで違いますね。機械学習においては、高精度な予測のために手段は問わないので、予測するためのモデルがかなり複雑になるため、統計学のように現象を理解することが難しくなります。イメージとしては統計学は線形モデルで予測するところ、機械学習では非線形モデルで予測する感じでしょうか。

次に、「機械学習」のやり方について説明しています。「特徴量の設計」という、様々なデータから学習に適した構造化したデータへの変換からはじまり、「モデルの構築」という、特徴量の設計で変換されたデータをインプットとしてアウトプットがうまい具合に出てくるように線形モデルや階層モデルで構築し、「モデルパラメータの学習」という、構築したモデルのチューニングを行い、次いで「モデルの評価」と続いてきます。

 

自分でも経験がありますが、モデルを複雑にしすぎると、「過学習」と言って、分析のやりすぎとなり、外れた時に大外しするようなモデルになります。こういったことは「モデルパラメータの学習」において防ぐコツがあるようです。

また、「特徴量の設計」というデータの変換方法は少し前までは人間が決め打ちでやっていたものですが、ニューラルネットワークを用いて効果的に特徴量の設計が出来るようになってきたという話も後半に出てきます。人間のやることがどんどん無くなってます!

とはいえ、機械学習の現象を理解できないブラックボックスだけでは受け入れられない場合もあるので、統計学のように人間に理解の出来るホワイトボックスとが混在するハイブリッドなモデルでアプローチしていくことが良いのではないかと筆者は結んでいます。

 

2本目の論文(AIの資産運用への応用の可能性と限界ー南正太郎氏、光定洋介氏)に進みます。こちらの論文でも機械学習について書かれていますが、機械学習は統計分析にすぎないとして、分析の手法をいくつか紹介してくださっています。

分析の手法ですが、アソシエーションツール、決定木(「けっていぎ」と読みます)と集団学習、クラスタリング、ニューラルネットワークなどが紹介されています。決定木と集団学習は少し研究したことがありまして、「ランダムフォレスト」などと言いますが、様々なファクターの結果をうまく配置してイエスかノーで分岐させていって今後を予測するというものです。人間の感覚では出てこない分岐もあったりしてキツネにつままれた感じになりますが有力な分析方法であることは感じました。

また、応用編としてテキストマイニングの可能性が書かれていますが面白いです。テキストマイニングとは、簡単に言ってしまえば、膨大なテキストデータの分析となりますが、既に株式マーケットではニュースや定期的に発表される経済指標、企業の決算発表の資料などが実際に使われています。例えばですが、大きめの地震が発生したというニュースが流れると売るトレードが自動で作動していたりします。要人のツイッターの投稿にも反応していますし、まさに現在進行形で発展途上の分野です。

 

3本目の論文(AIと金融との関わりの歴史ー水野貴之氏)では、科学者が金融市場で何をしてきたかという歴史が分かりやすく書かれています。ランダムウォーク理論をワラントの価格の算出に利用したり、オプションのプライシングに対してのブラック・ショールズ方程式の発表などの歴史です。ここ何十年かでいわゆる金融工学が発展してきました。

その後の高頻度取引(ハイフリーケンシー)時代の出現に対しては詳しく書いてあるのですが、金融工学とは言えないような、動きの遅い取引者を出し抜くような取引もあるので基本的には悪玉という論調です。私も個人的にはそう思います。筆者はさらに、実体経済を予測するのではなく、他の市場参加者の行動を予測しているため、売りが売りを呼ぶフラッシュクラッシュのような事態が発生していることを問題視しています。

他にも有益な問題提起が出てきますが、結びに、豊富な資金によって市場をコントロールされてしまって、われわれの資産が食いつぶされないだろうか?という問題提起が出てきます。市場の管理者は公平な取引環境が達成されるように規制していくべきで、米国での執行する気のない見せ玉注文を違法とする法整備や、イタリアでの0.5秒未満の超高速取引に対して税を課すなど行なわれていることを紹介しています。

 

4本目の論文(米国のAI開発・実用化とフィンテックAIの動向ー八山幸司氏)では、金融に限らず人工知能の実用化の動向を紹介しています。後半に金融分野における人工知能の実用化の動向が出てきます。

まず、金融分野以外の分野でに人工知能に実用化の動向ですが、医療や、小売流通、交通管理などの例が出てきます。交通管理の例として、交差点に設置したカメラの画像で交通量などを割り出して信号待ちの時間が少なくなるように調整する技術ということが紹介されていますが、素晴らしい技術進歩と思いました。全米149都市で既に利用されているそうです。スゴいですね。

金融分野における人工知能の実用化については、企業名を挙げて何をやっているかということを紹介しています。情報収集力などすごいなと思いますが、大手ではキャピタルワン、ゴールドマンサックス、JPモルガンチェース、シティグループが挙げられていて、ベンチャー企業としてはツーシグマインベストメンツ、H2O.AI社などが出てきます。

ツーシグマインベストメンツは昨今、マーケット参加者に注目されてきているヘッジファンドで、AIを利用した資産運用のパイオニアで、運用資産も急成長しています。おそらくこれからドンドン出てくると思いますので要注目です!

 

AIというホットな特集で、興味を持って読み進めることが出来ました。1本目の植野剛さんの論文はAIを学ぶ出発点にもなる分かりやすく深い論文でしたし、その他の論文も、現在進行形で進化しているAIについて様々な切り口で分析、議論をしていて月並みな言葉になってしまいますが、勉強になりました。予告にありましたが、10月号もAIに関する特集だそうです。楽しみに待ちたいと思います。

 

 

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